熟練の狩人
グリム童話
あるところに、とっても腕のいい若い猟師がいました。彼は特別な鉄砲を持っていて、この鉄砲で狙うと、絶対に外れないのです。
ある日、猟師が森を歩いていると、大きな大きな三人の巨人に出会いました。「よう、ちびっこいの」と巨人の一人が言いました。「お前の腕前を見せてみろ。あの高い木のてっぺんにある鳥の巣、あの巣の中の卵を、鳥を傷つけずに撃ち落とせるか?」
猟師はにっこりして、「お安い御用です」と言うと、鉄砲を構えました。パーン!見事に卵だけが真っ二つになって落ちてきました。鳥も巣も、まったく無事でした。
巨人たちはびっくり。「たいしたもんだ!じゃあ、あそこでぐーぐー寝ている仲間の髪の毛を、起こさずに一本切ってみろ」
猟師はそーっと巨人に近づき、するどいナイフでちょきん。寝ている巨人は少しも気づきません。
「よし、最後だ!わしの頭の上にリンゴを乗せるから、それを撃ってみろ!」
猟師はまた鉄砲を構え、パーン!リンゴだけがきれいに落ちました。
巨人たちはすっかり感心して、「お前はすごい!実は、この先の古城に、美しいお姫様が悪い竜に閉じ込められているんだ。助け出してやってくれ」と道案内をしてくれました。
お城に着くと、門の前ではたくさんの大きな犬がぐっすり眠っています。猟師は、起こさないように、つま先でそーっと、そーっと犬たちをまたいで中へ入りました。
広い広間には、立派な剣が一本飾ってあり、そのそばには「この剣を持つ者は、全てのものを打ち破ることができる」と書かれた札がありました。猟師はその剣を手に取りました。
一番奥の部屋に行くと、美しいお姫様が泣いていました。そして、お姫様のそばには、七つの頭を持つ恐ろしい竜が火を噴こうとしています!
猟師は少しも慌てず、まずは自慢の鉄砲で竜の頭を一つ、また一つとパーン!パーン!と撃ち抜きました。六つの頭を撃ち落としたところで、最後の頭が襲いかかってきました。猟師はすかさず、手にした剣で残りの頭をザン!と切り落としました。
そして、証拠のために、七つの竜の舌を全部切り取って、自分の袋に入れました。
さすがの猟師も疲れてしまい、お姫様のそばでぐっすり眠ってしまいました。
そこへ、ずる賢い家来がやってきました。家来は、眠っている猟師と、首のない竜を見てにやりと笑うと、竜の首を全部持ち去り、お姫様を無理やり王様のところへ連れて行きました。「王様!私がこの恐ろしい竜を退治いたしました!お姫様をお助けしたのです!」と大きな嘘をつきました。
お姫様は本当のことを言いたかったのですが、家来に脅されて何も言えません。
王様はすっかり騙されて、家来にお姫様を褒美として与えることにしました。
結婚式の日、お城では盛大なパーティーが開かれていました。そこへ、あの若い猟師がやってきました。
お姫様は猟師に気づき、王様にこう言いました。「お父様、お祝いの席ですから、皆で面白いお話をするのはどうでしょう?」
王様も賛成し、みんなが順番に話をしました。最後に猟師の番が来ました。
猟師は、森で巨人に会ったこと、お城で犬をまたいだこと、そして七つの頭の竜を鉄砲と剣で倒したことを、ゆっくりと話しました。
「そして、これがその証拠です」と、袋から七つの竜の舌を取り出しました。
ずる賢い家来が持ってきた竜の首を調べてみると、どの首にも舌がありません。
王様は全てを悟りました。ずる賢い家来は城から追い出され、猟師の本当の勇気がたたえられました。
そして、若い猟師は美しいお姫様と結婚し、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
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