いばらの中のユダヤ人
グリム童話
これは、正直で働き者の男の子のお話です。
男の子は、とてもけちな主人のもとで三年間、一生懸命働きました。でも、もらったお給金はほんのわずか。がっかりして歩いていると、小さな親切な男の人が現れて言いました。「君は正直者だから、三つの願いをかなえてあげよう。」
男の子は喜びました。
「一つ目は、狙った鳥が必ず歌いだす鉄砲をください。」
「二つ目は、弾くと誰もが踊りださずにはいられないバイオリンを。」
「三つ目は、誰にお願いしても絶対に断られない力がほしいです。」
小さな男の人はにっこりして、三つのものを男の子にくれました。
しばらく行くと、男の子はあごひげを生やしたユダヤ人に出会いました。ユダヤ人は美しい鳥を手に持っていました。
「その鳥、とってもきれいだね!歌うかい?」男の子が鉄砲を構えると、鳥は美しい声で歌いだしました。
「素晴らしい!その鳥を僕に売ってくれない?」
「だめだ!」ユダヤ人は言いました。
男の子がもう一度鉄砲を撃つと、鳥は地面に落ちてしまいました。ユダヤ人は怒って鳥を拾いました。
そこで男の子はバイオリンを取り出し、陽気な曲を弾き始めました。すると、ユダヤ人はとげだらけの茨の茂みの中で踊りだしたのです!
「やめてくれ!痛い!助けてくれたら、持っているお金を全部やる!」ユダヤ人は叫びました。
男の子はバイオリンを弾くのをやめ、ユダヤ人からお金の袋を受け取りました。
ところが、ユダヤ人はすぐに裁判官のところへ行き、「あの男の子に金を盗まれた!」と嘘をつきました。
男の子は呼ばれましたが、「いいえ、彼が自分からくれたんです」と言っても、誰も信じてくれません。とうとう、男の子は絞首刑にされることになってしまいました。
「最後に一つだけお願いがあります」と男の子は言いました。「あのバイオリンを弾かせてください。」
裁判官は、「まあ、それくらいならよかろう」と許しました。
男の子がバイオリンを弾き始めると、さあ大変!裁判官も、見物人も、そしてユダヤ人も、みんな踊りだして止まらないのです。
「わ、わかった!私が嘘をつきました!」ユダヤ人は踊りながら叫びました。「お金は、私が彼にあげたのです!助けてくれ!」
それを聞いて、裁判官は男の子を許しました。そして、嘘をついたユダヤ人が代わりに罰として絞首刑になりましたとさ。
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