• かわいそうな粉屋の弟子と子猫

    グリム童話
    風車がくるくる回る、小さな村のはなしです。その村に、年取った粉ひき屋のおじいさんがいました。おじいさんには三人の弟子がいましたが、誰に大切な粉ひき小屋を継がせるか、とても悩んでいました。

    ある日、おじいさんは言いました。「よし、おまえたちに試練をだそう。一番立派な馬を連れてきた者に、この粉ひき小屋を譲ることにするよ。」

    二人の兄弟子は、いそいそと出かけていきましたが、一番年下のハンスは、ちょっぴりおっとりしていて、どうしたものかと途方に暮れていました。それでもハンスは、自分なりに頑張ろうと、森の方へ歩いていきました。

    森の奥へ進むと、ハンスは道に迷ってしまいました。困っていると、どこからか可愛らしい声がします。「ニャー、そこで何をしているの?」
    見ると、一匹のきれいなぶち猫が、木の切り株にちょこんと座っていました。

    ハンスはびっくりしましたが、わけを話しました。するとぶち猫は言いました。「それなら、私に七年間仕えてくれないかしら?そうしたら、あなたが今まで見たこともないような、素晴らしい馬をあげるわ。」
    ハンスは「猫に仕えるなんて…」と少し戸惑いましたが、他に当てもないので、ぶち猫のお願いを聞くことにしました。

    ぶち猫はハンスを、森の奥にある小さなお城へ連れていきました。そこには、たくさんの猫たちがいて、みんなぶち猫に仕えていました。ハンスは毎日、お城の掃除をしたり、猫たちのために薪を割ったり、おいしいご飯を作ったりしました。ぶち猫はとても優しく、ハンスもだんだんこの生活が楽しくなってきました。

    あっという間に七年が経ちました。ぶち猫はハンスに言いました。「ハンス、よく働いてくれたわね。約束通り、あなたに最高の馬をあげましょう。」
    ぶち猫が前足をちょいと振ると、目の前に、金色のたてがみを持った、それはそれは立派な馬が現れました。馬の鞍もピカピカに輝いています。

    ハンスは大喜びで馬に乗り、粉ひき屋のおじいさんの元へ帰りました。
    おじいさんの家に着くと、二人の兄弟子も帰ってきていましたが、彼らが連れてきたのは、痩せて元気のない馬ばかり。ハンスの馬を見たおじいさんは、目を丸くして言いました。「おお、ハンス!なんて素晴らしい馬なんだ!おまえが一番だ!」

    でも、おじいさんはもう一つだけ試したいことがありました。「馬はハンスが一番だった。だが、今度は、一番美しい花嫁を連れてきた者に、この粉ひき小屋を本当に譲ろう。」

    ハンスはまたぶち猫のところへ戻り、このことを話しました。
    ぶち猫はにっこり笑って言いました。「心配いらないわ、ハンス。私があなたのお嫁さんになってあげる。」
    ハンスは「ええっ?」と驚きましたが、ぶち猫はくるりと一回転しました。するとどうでしょう!ぶち猫は、目も覚めるような美しいお姫様に変身したのです。お城も、一緒にいた猫たちも、立派な家来や侍女に変わっていました。

    お姫様は言いました。「実は私、悪い魔法使いに猫の姿に変えられていたの。あなたの優しい心と、七年間の働きのおかげで、魔法が解けたのよ。ありがとう、ハンス。」

    ハンスは美しいお姫様を連れて、粉ひき小屋へ帰りました。おじいさんも兄弟子たちも、お姫様の美しさを見て、びっくり仰天。
    こうしてハンスは、お姫様と結婚し、粉ひき小屋の主人になりました。そして、いつまでもいつまでも、幸せに暮らしましたとさ。

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