水妖
グリム童話
あるところに、とっても仲良しの兄と妹がいました。二人は毎日、森の奥にある古い井戸のそばで遊ぶのが大好きでした。
ある晴れた日、いつものように井戸のそばで遊んでいると、お兄ちゃんがうっかり足を滑らせて、ざぶーん!と井戸の中に落ちてしまいました。妹はびっくりして助けようとしましたが、自分もバランスを崩して、ぽちゃんと井戸の中へ。
気がつくと、二人は水の妖精のお屋敷にいました。水の妖精は言いました。「おやおや、お客さんかい? 私のところで働いてもらうよ。」
女の子には、もじゃもじゃに絡まった亜麻を渡して、「これをきれいな糸にしなさい」。男の子には、刃の欠けた斧を渡して、「これで大きな木を切り倒しなさい」。そして、ご飯はいつもカチカチに硬いお団子だけでした。
二人は毎日一生懸命働きましたが、お腹はぺこぺこ、心はしょんぼり。
ある日曜日、水の妖精が教会へお祈りに出かけた隙に、二人は手を取り合って逃げ出しました。
しばらくすると、水の妖精が追いかけてくる足音が聞こえます。「待ちなさーい!」
女の子は持っていたブラシをポイッと後ろへ投げました。すると、あら不思議!ブラシはチクチクとがった針の山になりました。水の妖精は「いたたた!」と言いながら、やっとのことで山を越えてきます。
また追いつかれそうになったので、今度はお兄ちゃんが持っていた櫛をえいっと投げました。すると、櫛はギザギザの歯がたくさんついた大きな山になりました。水の妖精は「うーん、大変だわ!」と苦労して山を登り、また追いかけてきます。
もうだめかと思ったとき、女の子は最後に持っていた小さな手鏡をパリンと投げました。すると、鏡はキラキラ光るガラスの山になり、ツルツル滑ってとても登れません。
水の妖精は、ガラスの山を前にして、「もう、これ以上は無理だわ!」と諦めて、しょんぼりしながら井戸へ帰っていきました。
兄と妹は、やっとのことでお家へ帰り着きました。お父さんもお母さんも、二人が無事に帰ってきたことをとても喜んで、ぎゅっと抱きしめてくれました。そして、みんなでいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
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