お爺さんと小さな孫息子
グリム童話
あるところに、年をとったおじいさんと、その息子夫婦、そして小さな孫のハンスが一緒に暮らしていました。おじいさんはもうすっかり年寄りで、目もよく見えず、耳も遠くなり、食事の時には手がブルブルと震えて、スープをこぼしたり、パンをうまくつかめなかったりしました。
息子夫婦は、そんなおじいさんの様子を見て、だんだんイライラするようになりました。「もう、またこぼして!」「食事が汚れてしまうわ!」と、ため息をつくばかり。とうとう二人は、おじいさんを食卓から離れた隅っこの、ストーブのそばに座らせて食事をさせることにしました。おじいさんは、みんなが楽しそうに食事をしているテーブルの方を寂しそうに見ながら、一人でぽつんとご飯を食べました。
ある日、おじいさんの震える手が滑って、持っていた土のお皿を床に落として割ってしまいました。お嫁さんはカンカンに怒って、「これからは、この木の器で食べてもらうわ!これなら割れないでしょう!」と、安い木の器を買い与えました。おじいさんは何も言えず、ただ悲しそうにうなずくだけでした。
四歳になる孫のハンスは、この一部始終を黙って見ていました。
数日後、ハンスが床の上で小さな木の板きれを一生懸命に何か作っているのを、お父さんとお母さんが見つけました。
「ハンス、そこで何をしているんだい?」お父さんが優しく尋ねました。
ハンスはにっこりして答えました。「これね、お父さんとお母さんのための、小さなご飯の桶を作ってるんだよ。」
「え?私たちのために?」お母さんが不思議そうに聞きました。
「うん!」ハンスは元気にうなずきました。「お父さんとお母さんが、おじいちゃんみたいに年をとったら、この木の桶でご飯を食べるんでしょ?だから、今のうちに作っておこうと思って!」
それを聞いたお父さんとお母さんは、顔を見合わせました。そして、急に胸がぎゅっと締め付けられるように苦しくなり、目には涙が浮かんできました。二人は自分たちがしてきたことを深く反省しました。
すぐに二人はおじいさんを隅っこから食卓に呼び戻し、それからはいつも一緒に食事をするようになりました。おじいさんが少しくらいスープをこぼしても、パンをうまくつかめなくても、もう誰も何も言いませんでした。ハンスも、おじいさんがみんなと一緒にご飯を食べるのを見て、とても嬉しそうにしていました。そして、あの小さな木の桶を作るのは、いつの間にかやめてしまったそうです。
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