狐と猫
グリム童話
森の奥深く、賢いと評判のキツネがいました。ある日、キツネはのんびり屋のネコに出会いました。
キツネは胸を張って言いました。「やあ、ネコくん。僕の賢さときたら、そりゃもう大変なものさ。百以上の策略と、数えきれないほどの技を持ってるんだぜ。君はどうだい?何か得意なことはあるのかい?」
ネコはのんびりあくびをしながら答えました。「へえ、キツネさんはすごいんですね。わたしなんて、たった一つしか得意なことがないんですよ。」
「たった一つだって?」キツネは少し馬鹿にしたように笑いました。「それは一体どんな技なんだい?」
「ええと、もし犬なんかに追いかけられたら、木にさっと登って逃げることくらいです。」とネコは答えました。
「ははは!それだけかい?」キツネはお腹を抱えて笑いました。「僕はね、穴に隠れることもできるし、ジグザグに走って敵をまくこともできるし、死んだふりだってできるんだ。君の技は、それに比べたらたいしたことないなあ。」
キツネが自分の技をあれこれと自慢していると、突然、遠くから猟師の笛の音と、たくさんの犬の吠える声が聞こえてきました。
「大変だ!猟師と猟犬だ!」ネコは叫びました。そして、あっという間に近くの一番高い木のてっぺんまで駆け登りました。「キツネさん、早くあなたのたくさんの知恵を使って逃げて!」
キツネはうろたえました。「ど、どの技を使おうかな?穴に隠れる?いや、ジグザグに走る?それとも…」キツネがあれこれ考えているうちに、猟犬たちはもうすぐそこまで迫っていました。
結局、キツネはどの技を使うか決める間もなく、猟犬たちに捕まってしまいました。
木の上から見ていたネコは、ため息をついて言いました。「キツネさん、たくさんの知恵もいいけれど、本当に困ったときに役に立つ一つの確かな技の方が、ずっと大切みたいですね。」
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