きつねとおかみさん
グリム童話
森のはずれに、キツネとクマのおばさんが、仲良く…いや、キツネはちょっとずる賢いところがありましたが、とにかく一緒に暮らしていました。
ある秋の日、二人は冬のために、おいしい蜂蜜がたっぷり入った壺を見つけて、森の奥の木のうろに隠しました。「冬になったら、二人で一緒に食べようね」と約束しました。
でも、キツネは蜂蜜のことが頭から離れません。数日後、キツネはクマのおばさんに言いました。「おばさん、ちょっとお出かけしてくるよ。親戚の赤ちゃんが生まれて、名付け親に呼ばれたんだ。」
「あら、それはおめでとう!どんな名前をつけたの?」とクマのおばさん。
キツネはペロリと舌なめずりしながら、「ええと、『てっぺんナメ』だよ。」と言って出かけ、こっそり蜂蜜を壺の上の方だけ食べてしまいました。
また数日後、キツネは言いました。「おばさん、また名付け親に呼ばれちゃった。」
「まあ、人気者ねえ。今度はどんなお名前?」
「今度の子はね、『まん中カラ』っていうんだ。」キツネはまた出かけて、今度は壺の真ん中あたりをごっそり食べました。
そして、とうとう三度目。キツネは申し訳なさそうな顔もせず、「おばさん、またなんだ。これで最後だから!」
クマのおばさんは少し不思議に思いながらも、「そうなの。それで、今度のお名前は?」と聞きました。
キツネは得意そうに、「すごい名前でね、『すっカラカン』!」と言い放ち、残りの蜂蜜を全部平らげてしまいました。
やがて寒い冬がやってきました。
クマのおばさんは言いました。「キツネさん、いよいよあの蜂蜜を食べる時が来たわね。取りに行きましょう。」
二人が木のうろに行ってみると、なんと壺はからっぽ!
クマのおばさんはびっくり。「あらまあ!どうしたのかしら?泥棒かしら?」
キツネは知らんぷり。
でも、クマのおばさんは思い出しました。「『てっぺんナメ』、『まん中カラ』、『すっカラカン』…キツネさん、もしかして、あの赤ちゃんの名前って…」
キツネは顔を真っ赤にして、何も言えなくなってしまいました。そして、しっぽをくるんと丸めて、バツが悪そうに森の奥へ逃げていってしまいました。
クマのおばさんは、一人でしょんぼりしましたが、「正直が一番だなあ」とため息をつき、これからは一人でちゃんと食べ物を蓄えようと思ったのでした。
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