六人の豪傑、天下を巡る
グリム童話
戦争が終わって、一人の兵隊さんがしょんぼりしながら道を歩いていました。王様からもらったお金はほんのちょっぴり。「これじゃあ、パンも買えないや。よし、いつか王様をギャフンと言わせてやる!」兵隊さんは、なんだか新しい冒険が始まるような気がして、少しワクワクしてきました。
まず、森のはずれで、大きな木をまるでニンジンみたいにひょいひょいと引っこ抜いている男の人に出会いました。「すごい力持ちだね!」兵隊さんが声をかけると、男はにっこり。「これくらい、朝の体操みたいなもんさ!」兵隊さんは「仲間にならないか?」と誘い、力持ちは「面白そうだ!」とついてきました。
次に、遠くの木の枝にとまっている小さなハエの、左の目をピストルで狙っている狩人を見つけました。「そんな遠くから、よく見えるね!」「ああ、僕の目にかかれば、どんな小さなものでも見逃さないよ」狩人も仲間になりました。
町を通りかかると、大きな風車がものすごい勢いでぐるぐる回っています。でも、風はそよそよ。「あれ?」見ると、一人の男が片方の鼻の穴からふーっと息を吹きかけて、風車を回していたのです。「君の鼻息はすごいね!」「これでも、もう片方の鼻の穴は押さえているんだ。両方使ったら、町ごと吹き飛んじまうからね」この鼻息男も、もちろん仲間入り。
野原では、一人の男が片足を体に縛り付けて、もう片方の足だけでぴょんぴょんと、まるでウサギみたいに速く走っていました。「どうして片足で走っているの?」「両足で走ったら、速すぎて自分でもどこへ行ったかわからなくなっちゃうのさ!」この足の速い男も、喜んで仲間になりました。
最後に会ったのは、真夏なのにぶるぶる震えている男でした。彼がそばにいるだけで、周りの空気もひんやり。「暑いのに、寒いの?」「ああ、僕がいるとね、どんなに熱い場所も涼しくなるんだ。でも、僕自身はいつも寒くてたまらないんだよ」この寒がり男も、兵隊さんの話を聞いて「それなら、僕の力も役に立つかも!」と仲間になりました。
こうして六人は、王様のお城へ向かいました。
王様のお城には、とても美しいけれど、ちょっぴりいじわるなお姫様がいました。お姫様は言いました。「私と競争して勝ったら、望むものを何でもあげるわ。でも負けたら…ふふふ、どうなるかわかっているでしょうね?」
最初の競争はかけっこです。「あの遠くに見える泉から、先に水を汲んできた方が勝ちよ!」お姫様は自信満々です。
足の速い男が言いました。「お任せを!」彼は縛っていた足をほどくと、風のように走り出しました。あっという間に泉に着き、水を汲んで戻る途中、あまりに速く着きすぎたので、木陰でちょっと一休み。ぐーぐー。
お姫様がやっと泉に着いたころ、男は目を覚まし、びゅーんと風を切ってお城へゴール!「やったー!」六人は大喜び。お姫様は悔しそう。
次に王様は言いました。「よろしい。では、城の地下にある宝物庫から、一人の男が運べるだけの金貨を持っていくがよい。ただし、それがお前たちの褒美の全てだ!」王様は、どうせたいして運べないだろうと、たかをくくっていました。
力持ちの男が前に出て、大きな大きな布袋を取り出しました。そして、宝物庫にあった金貨や宝石をぜーんぶ袋に詰め込むと、まるで羽根布団でも持つかのように、ひょいと肩にかつぎました。「これくらいなら、楽勝だね!」
王様もお姫様も、あっけにとられて口をあんぐり。
王様はやっぱり悔しくてたまりません。「待て!その宝物を置いていけ!兵隊、かかれ!」
たくさんの兵隊が六人に襲いかかろうとしました。その時、鼻息の強い男が前に出て、両方の鼻の穴から「ふーーーーーーんっ!!」と、ものすごい息を吹きかけました。王様の兵隊たちは、まるで秋の木の葉のように、くるくる舞い上がり、みーんな遠くへ吹き飛ばされてしまいました。
とうとう王様は降参しました。六人の仲間たちは、たくさんの金貨を山分けして、それぞれの故郷へ帰っていきました。兵隊さんは大金持ちになり、もう王様に仕返ししようなんて考えませんでした。みんな、自分のすごい力を使って、その後も楽しく暮らしたということです。めでたし、めでたし。
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