狼と人間
グリム童話
森の奥に、一匹のオオカミが住んでいました。このオオカミ、自分は森で一番強くて賢いと、いつも威張っていました。「ふふん、俺様にかかれば、どんな動物だってへなちょこだい!」なんて、よく独り言を言っていたんですよ。
ある日のこと、オオカミが森をパトロールしていると、ひょっこり人間に出会いました。人間はオオカミよりも体が小さくて、爪も牙もたいしたことなさそうです。「なんだ、人間か。弱っちそうだな。俺様が一吠えすれば、きっと逃げていくに違いない」オオカミはそう思って、ニヤリとしました。
人間はオオカミを見ると、にっこり笑って言いました。「やあ、オオカミくん。君は自分が一番強いと思っているんだろう?ちょっと面白いものを見せてあげようか」
オオカミは「ふん、人間なんかに何ができるもんか」と、少し馬鹿にしたように見ていました。
すると人間は、肩にかけていた細長い棒を取り出しました。「これを見てごらん」人間がそう言って棒の先を森の奥に向けると、突然「ドーン!」と大きな音がして、棒の先から煙がもくもくと出ました。遠くの木の葉っぱが、バラバラと落ちるのが見えました。
オオカミはびっくり仰天!「ひゃあ!なんだ今の音は!あの棒は一体何なんだ?何かすごいものが飛び出したぞ!」心臓がドキドキしました。
人間は次に、大きな鉄の塊がついた木の棒、つまり斧(おの)を取り出しました。「今度はこれだ」そう言って、そばにあった太い切り株に、斧を力いっぱい振り下ろしました。すると、「バキッ!」と大きな音を立てて、硬い切り株が真っ二つに割れてしまいました。
オオカミはまたまたびっくり!「うわあ!あの人間、自分のお腹をあの鉄の道具で叩いて、体を二つに割っちゃったぞ!それでも平気な顔してる!なんて恐ろしいんだ!」オオカミは、人間が木を割ったのを、人間自身が何かすごいことをしたのだと勘違いしてしまったのです。
「さあ、もっと面白いところへ行こう」人間はオオカミを鍛冶屋(かじや)さんへ連れて行きました。鍛冶屋さんでは、真っ赤に焼けた鉄を職人さんがハンマーで「カン!カン!」と叩いています。火花がパチパチと飛び散り、鉄はジュージューと音を立てています。
オオカミはもう、目も口もあんぐり。「熱い!うるさい!火の子が飛んでくる!人間は火の中でも平気なのか!鉄を叩いて形を変えるなんて、魔法使いみたいだ!」
オオカミはすっかり怖くなってしまいました。「に、人間って、見た目は弱そうだけど、とんでもなく強くて、不思議な力を持っているんだ…もうダメだ、逃げろー!」
オオカミは尻尾を巻いて、一目散に森の奥へ逃げていきました。
それからというもの、オオカミは人間を見かけると、そーっと隠れるようになり、「人間様は本当にすごいんだなあ」と、二度と人間の強さを疑うことはありませんでしたとさ。
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