• 犬と雀

    グリム童話
    むかしむかし、とはちょっと違うけれど、あるところに、一匹の忠実な犬がいました。名前はコロにしましょうか。コロは長い間、ご主人様のために一生懸命働いてきましたが、年を取って少し元気がなくなると、ご主人様はコロにご飯をあまりくれなくなってしまいました。コロは毎日お腹をペコペコにすかせて、しょんぼりしていました。

    ある日、コロが悲しそうに道のそばで休んでいると、一羽のスズメがチュンチュンと飛んできて、コロの頭の上にとまりました。「ワンちゃん、どうしてそんなに悲しい顔をしているの?」とスズメが尋ねました。
    「だって、ご主人様がご飯をくれないんだ。お腹が空いて力が出ないよ」とコロが弱々しく答えました。
    「それはいけないわね!」スズメは言いました。「よし、私にいい考えがあるわ!ついてきて!」

    スズメはコロを町のパン屋さんの前へ連れて行きました。「ちょっと待っててね」と言うと、スズメはパン屋さんの窓から中に入り、棚にあったパンを一つ、くちばしでツンツンとつついて落としました。コロはそれをさっとくわえて、大喜びで食べました。「ありがとう、スズメさん!でも、まだ喉が渇いているんだ。」
    「任せて!」スズメはコロを今度は、ワインを運んでいる荷馬車のところへ連れて行きました。スズメは樽の栓をコツコツとくちばしでつついて、少しだけ緩めました。すると、ワインがポタポタと流れ出し、コロはそれをペロペロと舐めて喉の渇きをいやしました。

    ところが、それを見ていた荷車の男はカンカンに怒って、「この泥棒スズメめ!よくも俺のワインを!」と持っていた斧を振り上げました。スズメはヒラリとかわしましたが、男が振り下ろした斧は、なんと自分の馬の足に当たってしまったのです!馬は悲鳴をあげて倒れてしまいました。
    「ああ、なんてことだ!」男は自分の馬を失って、スズメと犬をますます憎みました。

    男は怒り心頭で家に帰りましたが、スズメもこっそり後を追いかけ、男の家の屋根裏に忍び込みました。そして、男が蓄えていた穀物の袋をくちばしでつついて、穀物をパラパラと床にこぼし始めました。
    「キーッ!またあのスズメか!」男は屋根裏に駆け上がり、また斧を振り回しました。スズメはチュンチュンと笑うように飛び回り、男はスズメを追いかけるうちに、家の窓ガラスを割り、家具をめちゃくちゃに壊してしまいました。奥さんも一緒になってスズメを捕まえようとしましたが、スズメはすばしっこく逃げ回り、家の中はもうボロボロです。

    「こうなったら、お前を食べてやる!」男はそう叫ぶと、疲れ果てて少し動きが鈍くなったスズメを、とうとう手でパシッと捕まえました。そして、なんとスズメをそのままパクリと飲み込んでしまったのです!
    「これで静かになっただろう!」と男は思いました。

    ところが、どうでしょう!スズメは男のお腹の中から、羽をバタバタさせたり、くちばしでチクチクしたりし始めました。「痛い、痛い!お腹が痛い!」男は苦しみ出しました。スズメは男の喉の奥まで登ってきて、男が大きく口を開けた瞬間、ピョンと飛び出して、元気に空へ飛んでいきました。男はあまりのことに、バタンと倒れてしまいました。

    一部始終を見ていたコロは、賢くて勇敢なスズメに心から感謝しました。そして、こんなひどい目に遭わせてしまうご主人様の元を離れ、新しい冒険の旅に出ることにしました。スズメも時々コロのところに飛んできて、二人はいつまでも仲良しだったということです。

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