リュックサックと帽子と角笛
グリム童話
あるところに、お父さんもお母さんもいない、三人の兄弟が暮らしていました。毎日お腹をすかせていたので、ある日、一番上のお兄さんが言いました。「よし、みんなで幸せを探しに出かけよう!」
こうして三人は旅に出ました。森を抜けていくと、小さな灰色の男の人が現れて、一番上のお兄さんに尋ねました。「どこへ行くのかね?」
「幸せを探しにさ!」お兄さんが答えると、男の人は不思議なリュックサックをくれました。「これをポンと叩けば、兵隊がたくさん出てくるリュックサックじゃよ。」
お兄さんは大喜びでリュックサックをもらい、男の人にお礼を言って先へ進みました。
次に、二番目のお兄さんの前に、またあの小さな灰色の男の人が現れました。「どこへ行くのかね?」
「幸せを探しに行くんだ!」二番目のお兄さんが答えると、男の人は古い帽子をくれました。「この帽子をくるっと回せば、金貨がザクザク出てくる帽子じゃ。」
二番目のお兄さんも大喜びで帽子をもらい、先を急ぎました。
最後に、末っ子の弟の前にも、やっぱりあの小さな灰色の男の人が現れました。「坊やはどこへ行くのかね?」
「兄さんたちと、幸せを探しに!」末っ子の弟が元気よく答えると、男の人は古びた角笛をくれました。「この角笛をプーッと吹けば、聞いた者は誰でも踊りだす、魔法の角笛じゃ。」
末っ子の弟は、なんだか面白そうな角笛をもらって、にっこり笑いました。
さて、一番上のお兄さんはリュックサックを叩いて兵隊を出し、あっという間に一つの国を攻め落として王様になりました。
二番目のお兄さんは帽子を回して金貨をたくさん出し、国一番の大金持ちになりました。
二人のお兄さんは、すっかり偉そうな王様とお金持ちになって、末っ子の弟のことなんて、すっかり忘れてしまいました。
末っ子の弟は、兄さんたちが自分を忘れてしまったことを知って、少し悲しくなりました。でも、すぐに元気を出して、王様になったお兄さんのお城へ向かいました。
お城の門番は、みすぼらしい弟を通してくれません。そこで弟は、角笛を思いっきりプーッと吹きました。
するとどうでしょう!門番も、お城の中にいた兵隊さんたちも、お料理を作っていたコックさんも、みんな踊りだしました。王様のお兄さんも、大臣たちと会議の途中でしたが、いきなり踊りだしてしまいました。
「な、なんだこれは!足が勝手に!や、やめろー!」王様は叫びましたが、踊りは止まりません。
そこへ、大金持ちになった二番目のお兄さんが、金貨の袋を抱えてやってきました。角笛の音を聞くと、彼もまた踊りだしてしまいました。金貨が袋からこぼれても、踊りは止まりません。
「た、助けてくれー!体が言うことを聞かないよー!」
末っ子の弟は、踊り続ける兄さんたちを見て言いました。「僕のこと、覚えてる?この角笛を吹くのをやめてほしかったら、そのリュックサックと帽子を僕にちょうだい。」
兄さんたちは踊りながら、「わ、わかった!やるから、もうやめてくれー!」と叫びました。
末っ子の弟が角笛を吹くのをやめると、みんなピタッと踊りをやめて、その場にへたり込みました。
「はあ、はあ、疲れた…」
末っ子の弟は、リュックサックと帽子を受け取りました。そして言いました。「これからは、このリュックサックと帽子と角笛を、みんなのために使おうよ」と。
それから三人は、力を合わせて、国の人々を助け、みんなで仲良く暮らしましたとさ。
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