• 奇妙な名前の小人

    グリム童話
    ある王国に、粉ひき屋さんが住んでいました。この粉ひき屋さんには、とても美しい娘がいましたが、お父さんは少し見栄っ張りなところがありました。

    ある日、王様が粉ひき屋さんの前を通りかかると、お父さんはつい言ってしまいました。「王様、うちの娘はわらを紡いで、ピカピカの金に変えることができるんですよ!」

    王様はそれを聞いてびっくり。「ほう、それはすごい!もし本当なら、城へ連れてきなさい。試してみようではないか。」

    娘さんはお城へ連れて行かれ、わらが山積みになった部屋に入れられました。「朝日が昇るまでに、このわらを全部金に変えるのだ。できなければ、どうなるかわかっておるな?」と王様に言われ、部屋に鍵をかけられてしまいました。

    娘さんは途方に暮れて泣き出しました。わらを金に変えるなんて、できるわけありません。「どうしよう…」

    そのとき、ぴょこん!と、小さなへんてこな男の人が部屋に現れました。「やあ、お嬢さん。どうしてそんなに泣いているんだい?」

    娘さんが事情を話すと、男の人は言いました。「ふむ。もしわしがお前のためにわらを金に変えてあげたら、お礼に何をくれるかね?」
    「この首飾りを差し上げますわ」と娘さんが言うと、男の人は「よしきた!」と言って、カタカタカタ…と糸車を回し始めました。あっという間に、部屋いっぱいのわらが輝く金に変わったのです。

    朝になり、王様は金を見て大喜び。でも、もっと金が欲しくなりました。次の夜、娘さんはもっと大きなわらの部屋に入れられました。また小さな男の人が現れ、「今度は何をお礼にくれるんだい?」と聞きました。
    「この指輪を差し上げます」
    男の人はまたわらを金に変えてくれました。

    三日目の夜、王様はさらに欲張りになり、もっともっと大きな部屋に娘さんを入れ、「これが最後だ。もしできたら、お前を妃にしてやろう」と言いました。
    また男の人が現れましたが、娘さんにはもうあげるものがありません。
    すると男の人は言いました。「それなら、お前が王妃になって、最初に生まれる赤ちゃんをわしにくれると約束するんだ。」
    娘さんは他にどうしようもなく、「はい…」と約束してしまいました。男の人はまたわらを金に変え、娘さんは王様のお妃になりました。

    一年後、王妃さまにかわいい赤ちゃんが生まれました。王妃さまはすっかり小さな男の人との約束を忘れていましたが、ある日、その男の人がひょっこり現れたのです。
    「さあ、約束通り、赤ちゃんをもらいに来たよ。」
    王妃さまはびっくりして泣き出し、国中の宝物をあげるから赤ちゃんだけは見逃してほしいと頼みました。
    男の人は少し考えて言いました。「わかった。それなら、三日以内にわしの名前を当てることができたら、赤ちゃんは諦めよう。でも、当てられなかったら、赤ちゃんはわしのものだ。」

    王妃さまは国中に使いを出し、珍しい名前をできるだけたくさん集めさせました。
    一日目、男の人が来ると、王妃さまは「カスパール?メルヒオール?バルタザール?」と知っている名前を全部言いましたが、男の人は「違う、違うなあ」と首を振るばかり。

    二日目も、王妃さまは「骨太さん?羊肉さん?それとも、ひも足さん?」なんておかしな名前を言ってみましたが、男の人は「ぜーんぶ、はずれ!」と言って笑いました。

    三日目の朝、使いの一人が戻ってきて、こう報告しました。
    「森の奥深くで、小さな男の人が火の周りで踊りながら、こんな歌を歌っていました。『今日はパンを焼き、明日はビールを仕込み、あさっては女王様の赤ちゃんをもらうのさ。ランペルスティルツキンって名前、誰も知らないのがいいところ!』と。」

    王妃さまはそれを聞いて大喜び。その夜、男の人がやってきました。
    「さあ、王妃さま。わしの名前はわかったかな?」
    王妃さまはまずとぼけて言いました。「うーん、クンツさんかしら?」
    「違うねえ。」
    「それじゃあ、ハインツさん?」
    「それも違う。」
    「じゃあ…もしかして、あなたの名前は…ランペルスティルツキン?」

    それを聞いた男の人は、びっくり仰天!「だ、誰が教えたんだ!悪魔が教えたに違いない!」と叫び、怒りのあまり、右足で床をドン!と踏みつけると、ズボッ!と腰まで床にはまってしまいました。そして、左足で自分を引き抜こうとしましたが、あまりに力を入れすぎたのか、そのまま姿が見えなくなってしまいました。

    こうして、王妃さまと赤ちゃんは、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

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