鳥の捨て子
グリム童話
深い深い森の真ん中に、木こりをしているおじさんが一人で暮らしていました。ある日、おじさんが森を歩いていると、高い木のてっぺんにある鳥の巣から、小さな赤ちゃんの泣き声が聞こえてきました。「おや?」と思って木に登ってみると、なんとそこには人間の赤ちゃんがいたのです!おじさんはびっくりしましたが、その可愛らしい赤ちゃんを「フンデフォーゲル」(みつけ鳥ちゃん、という意味です)と名付けて、自分の家に連れて帰りました。
おじさんの家には、レンヒェンという名前の娘がいました。フンデフォーゲルとレンヒェンは、まるで本当の姉妹のようにすぐに仲良しになりました。二人はいつも一緒。遊ぶのも、ご飯を食べるのも、眠るのも、いつも一緒でした。
ところが、この家にはちょっといじわるな料理番のおばあさんがいました。おばあさんは、なぜだかフンデフォーゲルのことが好きではありませんでした。ある晩のこと、レンヒェンはこっそり聞いてしまったのです。料理番のおばあさんが、大きな鍋をゴシゴシ洗いながら「明日になったら、あのフンデフォーゲルを捕まえて、ぐつぐつ煮て食べてしまおう」とつぶやいているのを!
レンヒェンは真っ青になりました。急いでフンデフォーゲルのところに飛んでいって、小さな声で言いました。「フンデフォーゲル、大変よ!あのおばあさんが、あなたを食べようとしてるの!早く逃げなくちゃ!」
次の日の朝早く、まだお日様も眠っているうちに、フンデフォーゲルとレンヒェンは手をつないで、そーっと家を抜け出しました。
料理番のおばあさんが目を覚まして、フンデフォーゲルがいないことに気づくと、カンカンに怒りました。「あのちびっこたちめ、逃げたな!待ってろよ!」おばあさんは、三人の家来を呼びつけて、二人を追いかけるように言いました。
家来たちがすごい速さで追いかけてきます。もうすぐ捕まってしまいそう!そのとき、フンデフォーゲルが言いました。「レンヒェン、お願い、あなたがバラの茂みになって。私はその茂みに咲く一輪のバラになるわ。」
レンヒェンが「うん!」と言うと、不思議なことに、レンヒェンは美しいバラの茂みに、フンデフォーゲルはその中で一番きれいな赤いバラの花に変わりました。
追いかけてきた家来たちは、きょろきょろしましたが、女の子たちの姿は見えません。「あれ?どこへ行ったんだろう。バラの茂みしかないぞ」と、首をかしげながら帰っていきました。
料理番のおばあさんは、家来たちが手ぶらで帰ってきたのを見て、ますます怒りました。「役立たずめ!今度はもっとちゃんと探してこい!」と、また家来たちを送り出しました。
家来たちは、さっきよりもっと速く追いかけてきます。また捕まりそうになったとき、フンデフォーゲルが言いました。「レンヒェン、今度はあなたが教会になって。私はその教会のてっぺんでキラキラ光るシャンデリアになるわ。」
レンヒェンが「わかった!」と言うと、レンヒェンは立派な教会に、フンデフォーゲルは天井から下がる美しいシャンデリアに変わりました。
家来たちはまたしても、「おかしいなあ。さっきまでいたのに。教会があるだけだ」と、見つけられずに帰っていきました。
「もう我慢できない!」料理番のおばあさんは、今度は自分で追いかけることにしました。おばあさんの足は意外と速くて、あっという間に二人に追いつきそうです。
二人は大きな池のそばまで逃げてきました。フンデフォーゲルが叫びました。「レンヒェン、あなたがこの池になって!私はその池を泳ぐアヒルになるの!」
レンヒェンが「えいっ!」と気合を入れると、レンヒェンは広い広い池に、フンデフォーゲルは可愛らしい白いアヒルに変わりました。
いじわるなおばあさんは池のほとりにやってきて、アヒルを見つけました。「しめしめ、今度こそ逃がさないぞ。この池の水を全部飲んで、お前を捕まえてやる!」
おばあさんは、池の水をゴクゴク、ゴクゴクと飲み始めました。池の水がどんどん減っていきます。アヒルになったフンデフォーゲルは、おばあさんが水を飲むのに夢中になっているのを見て、すーっと近づいていくと、おばあさんの頭をくちばしでぐいっと池の中に引きずり込みました。
「ぶくぶくぶく…!」おばあさんは、そのまま池の底へと沈んでいってしまいました。
こうして、いじわるな料理番はいなくなりました。フンデフォーゲルとレンヒェンは、もとの女の子の姿に戻ると、手をつないで木こりのお父さんの待つお家に帰りました。
それから三人は、いつまでもいつまでも、仲良く幸せに暮らしたということです。
おしまい。
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