幸運なペーテル
アンデルセン童話
むかしむかし、という始まりじゃないお話だよ。
あるところに、ペーターという男の子がいました。ペーターが生まれた日、お空にはきれいな虹がかかって、小鳥たちは楽しそうに歌っていました。だからみんな、「この子はきっと、幸運の星のもとに生まれたんだね」とささやき合いました。
ペーターのお父さんとお母さんは、小さなパン屋さんでした。お店はあまり大きくなかったけれど、いつも焼きたてのパンのいい匂いがしていました。ペーターは、お店の手伝いをするよりも、窓から空を眺めて、雲の形から面白い動物を見つけたり、遠くの山の向こうには何があるんだろうと考えたりするのが好きな、夢見がちな男の子でした。
ある日、町にサーカスがやってきました。ペーターはキラキラした衣装や、ドキドキする曲芸を見て、すっかり夢中になりました。「ぼくも、あんなふうにみんなを笑顔にしたい!」ペーターはそう思うと、歌を歌ったり、おどけた踊りを練習したりし始めました。するとどうでしょう、ペーターの声はとてもきれいで、踊りもなんだか面白くて、みんなが手を叩いて喜んでくれたのです。
「よし、ぼくは役者になるぞ!」ペーターは大きな町へ出て、劇団に入りました。最初は小さな役でしたが、ペーターの明るい性格と才能はすぐにみんなに認められ、だんだん大きな役をもらえるようになりました。お客さんはペーターの歌や演技に大喜び。ペーターはたちまち人気の役者になりました。お金持ちの家の、きれいな娘さんとも知り合いになりました。
でも、ペーターはだんだん毎日の練習や同じセリフを言うのに飽きてきました。「もっと違う、わくわくすることがしたいなあ」そう思うと、ペーターは役者をやめてしまいました。
次にペーターは、「お父さんみたいに、商売をしてみよう!」と考えました。立派なお店を開きましたが、ペーターは細かい計算が苦手でした。お客さんにお釣りを間違えたり、品物の値段を忘れたり。お店はうまくいきませんでした。
「うーん、商売も向いてないみたいだ。そうだ、芸術家はどうだろう?美しい彫刻を作るんだ!」ペーターは今度は彫刻家になるために、遠いイタリアへ旅に出ました。一生懸命粘土をこねて、素晴らしい作品を作ろうとしました。少しずつですが、ペーターの作品を褒めてくれる人も出てきました。
でも、ペーターの心はなんだか満たされません。「ぼくは本当に幸運なのかなあ」と、ため息をつくこともありました。そんな時、昔役者をしていた頃に知り合った、あのきれいな娘さんと偶然再会しました。彼女はペーターの作った彫刻を見て、「あなたの作品は、あたたかい気持ちになるわ」と優しく微笑んでくれました。
ペーターはハッとしました。有名になることや、お金持ちになることだけが幸せじゃないのかもしれない。誰かが自分のしたことで喜んでくれたり、心があたたかくなったりすること、そして、大切な人と一緒に穏やかに過ごすこと。それが本当の幸せなんじゃないか、と。
ペーターは故郷に帰ることにしました。そして、あの娘さんと結婚し、小さな家で静かに暮らし始めました。時々、子供たちのために面白いお話を作ったり、歌を歌ってあげたりしました。ペーターの周りには、いつも優しい笑顔があふれていました。
みんなが言っていたペーターの「幸運」とは、お金や名声を手に入れることではなく、最後に本当の心の幸せを見つけ出す力のことだったのかもしれませんね。ペーターは、自分にとって一番大切なものを見つけて、とっても幸せに暮らしましたとさ。
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