• 伯母

    アンデルセン童話
    ハンス坊やが、おばさんのうちへ遊びに行く日です。おばさんは、ちょっとだけ厳しいけれど、本当はとっても優しい人です。

    おばさんのうちは、古くて、面白いものがたくさんあります。柱時計は、時間になると「カッコー、カッコー!」と鳥が出てきて鳴きます。棚の上には、きれいな陶器のお人形さんが、静かに並んでいます。お人形さんたちも、じっと坊やを見ています。

    「ハンス、これは触っちゃだめよ」「あれも、見るだけね」
    おばさんは優しく言いますが、ハンスはちょっとだけドキドキします。だって、おばさんのうちのものは、どれもピカピカしていたり、不思議な形をしていたりするのですから。

    特にハンスが好きなのは、おばさんの大きな肘掛け椅子です。ふかふかで、座るとお話が浮かんできそうな椅子です。でも、それはおばさん専用の椅子。「これはおばさんのお気に入りの椅子だから、座っちゃだめよ」といつも言われます。

    今日、おばさんはハンスのために、とっておきのクッキーを焼いて待っていてくれました。「さあ、お食べ」甘い匂いが部屋いっぱいに広がります。ハンスはクッキーを食べながら、おばさんの若い頃の話を聞きました。おばさんの目も、なんだかキラキラして見えました。

    おばさんは、戸棚から古いアルバムを出してきて、白黒の写真を見せてくれました。「これはね、あなたのおじいちゃんよ」「こっちは、お母さんがまだ小さかった頃」ハンスは、見たことのない家族の顔をたくさん見つけました。

    楽しい時間はあっという間。帰る時間です。「また遊びにおいで」おばさんは、ハンスの頭をそっとなでてくれました。そして、小さな包みを渡してくれました。「これは、今日のクッキーのお土産よ」

    ハンスは、おばさんのうちの匂いと、クッキーの味を思い出しながら、にこにこして帰りました。おばさんも、ハンスが帰った後、静かになった部屋で、しばらくハンスのことを考えて、にっこりしたのでした。そして、いつものように、お気に入りの肘掛け椅子にゆっくりと座りました。

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