• ボルエ主教とその騎士たち

    アンデルセン童話
    デンマークの国に、それはそれは立派なお城がありました。そこに住んでいたのは、ビュルゲという名前の、ちょっぴり…ううん、とっても食いしん坊で、ちょっぴりいばりんぼうの司教さまでした。

    司教さまは、毎日おいしいものをたーくさん食べて、まるまると太っていました。パンもケーキも、お肉もお魚も、ぜーんぶ自分のもの!って思っていたのです。お城の大きな倉には、たくさんの穀物が山のように積んでありました。

    そのころ、村の人たちは大変でした。雨がぜんぜん降らなくて、畑の作物がちっとも育たなかったのです。「お腹がすいたよう」子供たちは泣いていました。大人たちも困り果てて、とうとう司教さまにお願いに行くことにしました。

    「司教さま、どうか私たちに食べ物を分けてください!子供たちがお腹を空かせています!」
    村の人たちが、お城の門の前で声をからしてお願いしました。

    でも、ビュルゲ司教は窓から顔を出すと、ぷいっと横を向いて言いました。
    「ふん!わしの食べるものがなくなってしまうではないか!お前たちなんかにやるものか!」
    それだけではありません。司教さまは、そばにいた騎士たちに、とんでもないことを言いつけたのです。
    「あの者たちがうるさいから、倉に火をつけてしまえ!そうすれば、もう誰もわしの穀物を欲しがらないだろう!」

    「ええっ!そ、そんなもったいない!」
    騎士たちはびっくりしましたが、司教さまの命令には逆らえません。とうとう、たくさんの穀物が入った大きな倉は、メラメラと燃えてしまいました。村の人たちは、がっかりして泣きながら帰っていきました。

    ところが、その晩のことです。
    どこからともなく、一匹のネズミがチューチューと現れました。
    「なんだ、ネズミか」司教さまは気にしませんでした。
    でも、次には十匹、その次には百匹、あっという間に、お城の中はネズミだらけになってしまいました!
    ネズミたちは、パンくずを求めて、カリカリ、ガリガリ。司教さまの豪華な食事も、あっという間にネズミたちに食べられてしまいます。

    「ひえーっ!ネズミだ!ネズミの大群だ!」
    司教さまと騎士たちは、びっくり仰天。ほうきで追い払おうとしても、ネズミはどんどん増えるばかりです。
    「こ、こうなったら、川の真ん中にある石の塔に逃げるんだ!」
    司教さまは、ライン川の真ん中にぽつんと立っている、石でできた高い塔へ、騎士たちと一緒にボートで逃げ込みました。その塔は、昔から「ネズミの塔」と呼ばれていました。

    「ふう、ここまで来れば安心だ。ネズミどもも、まさか川を渡っては来れまい」
    司教さまはほっとしましたが、それもつかの間。
    なんと、ネズミたちは泳ぎがとっても上手だったのです!
    チューチュー、カリカリ、たくさんのネズミが川を渡って、塔の壁をよじ登ってきます。
    「うわーっ!こっちへ来るなー!」
    司教さまと騎士たちは、塔の一番上まで逃げましたが、ネズミたちはどこまでも、どこまでも追いかけてきました。

    次の朝、太陽が昇ると、ネズミの塔はシーンと静まりかえっていました。
    あれほどたくさんいたネズミたちも、そして、いばりんぼうで食いしん坊だったビュルゲ司教と騎士たちも、どこにも見当たりませんでした。
    ただ、塔の窓から、からっぽになったパンかごが、風にカタカタと揺れているだけでした。

    それからというもの、欲張りすぎると大変なことになるんだよ、とみんながお話しするようになったそうです。おしまい。

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