古い墓石
アンデルセン童話
教会のとなりには、静かなお墓の庭が広がっていました。そこには、たくさんの古い石が並んでいましたが、その中の一つに、特別なお話が隠されていました。
その石は、もう長い長い間、雨や風にさらされて、刻まれた文字もほとんど読めなくなっていました。でも、昔は立派な名前と、美しい飾りが彫られていたのです。
ある日、お墓の庭をきれいにすることになり、この古い石は運び出されることになりました。「もう誰も見向きもしないだろう」と、隅っこに置かれていた石を、通りかかった貧しいけれど心優しいおじいさんが見つけました。
「おや、これはしっかりした石だ。うちの庭に置いたら、子供たちが遊ぶのにちょうどいいかもしれない」
おじいさんは石を家に持ち帰り、庭の隅に置きました。
子供たちは大喜び!石は、ちょうどいい高さのテーブルみたいです。その上で、おままごとをしたり、絵本を読んだり、おやつを食べたり。石は、子供たちの楽しい遊び場になりました。
夕方になると、おじいさんは石のそばに座って、子供たちにお話をしました。
「この石はね、昔々、とっても仲良しのおじいさんとおばあさんのお墓だったんだよ」
子供たちは目を丸くして聞きました。
「そのおじいさんとおばあさんはね、いつもにこにこしていて、お互いをとっても大切にしていたんだ。庭にはきれいな花をたくさん植えて、小鳥たちと一緒に歌を歌ったりもしたそうだよ。二人で手を繋いで散歩するのが大好きだったんだって」
おじいさんの話を聞いていると、子供たちは石がただの冷たい石じゃないように思えてきました。なんだか、その仲良しだったおじいさんとおばあさんの優しい心が、石を通して伝わってくるような気がしたのです。
雨の日には、石はしっとりと濡れて、まるで何かを思い出しているように静かでした。晴れた日には、太陽の光を浴びて暖かくなり、子供たちが寄りかかると、なんだか安心しました。
石に刻まれた名前はもう消えてしまいましたが、おじいさんとおばあさんの優しい物語は、子供たちの心の中にしっかりと刻まれました。そして、その古い墓石は、家族みんなにとって、ただの石ではなく、温かい思い出がいっぱいつまった、大切な宝物になったのです。
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