• ヴァルデマール・ダーとその娘たち

    アンデルセン童話
    風がささやく、古いお屋敷の物語を聴いたことがありますか?
    その昔、デンマークという国に、ヴァルデマー・ドーという名前の、ちょっぴり夢見がちで、いつも何か新しいことを考えているおじさんが住んでいました。彼のお屋敷は、まるで小さなお城のように立派で、たくさんの窓がありました。

    ヴァルデマーさんは、特別なものを作り出すのが大好きでした。特に、キラキラと太陽のように輝く、黄金を作り出そうと、毎日一生懸命でした。「これがあれば、みんながもっと幸せになれるはずだ!」と信じていたのです。お屋敷の地下室は、ふしぎな道具や、色のついた液体が入った瓶でいっぱいでした。

    彼には、三人の可愛らしい娘さんたちがいました。長女のイーデ、次女のアンナ・ドロテーア、そして三女のもう一人の娘さんです。娘たちは、広いお庭でちょうちょを追いかけたり、お父さんの作るふしぎな実験をこっそりのぞき見したりするのが大好きでした。お屋敷の中は、いつも娘たちの楽しそうな笑い声でいっぱいでした。

    でも、ヴァルデマーさんの黄金作りの夢は、なかなか思うようにはいきませんでした。たくさんの材料を使い、たくさんの時間を使いましたが、ピカピカの黄金は生まれませんでした。そのうちに、お屋敷をきれいにしておくお金も、だんだんと少なくなっていきました。

    娘さんたちは大きくなり、それぞれ新しい生活のために、お屋敷から旅立っていきました。ヴァルデマーさんも年を取り、一人でお屋敷に残りました。昔は賑やかだったお屋敷も、少しずつ静かになっていきました。

    壁にはツタがするすると伸びて絡まり、屋根には小鳥たちが巣を作りました。お庭には、たくさんの野の花が咲き乱れ、まるで自然が「大丈夫だよ」とヴァルデマーさんを慰めているかのようでした。昔はピカピカに磨かれていた窓も、今は少し曇って、たくさんの思い出を映しているようでした。

    ある日、強い風が吹いて、お屋敷の古い窓ガラスが一枚、パリンと割れてしまいました。でも、その割れたガラスの破片の一つに、昔、娘のイーデがダイヤモンドの指輪でこっそり自分の名前を彫った跡が残っていました。それは、まるで小さな星のようにキラリと光って、ヴァルデマーさんの心を温かくしました。

    やがて、ヴァルデマーさんも静かに眠りにつき、お屋敷は完全に自然の一部になりました。風が吹くたびに、お屋敷は古い歌を歌うように、キシキシと音を立てます。「ヴァルデマーさん、娘さんたち、みんな元気だったかなあ」と、風がささやいているのかもしれませんね。

    そして今でも、そのお屋敷があった場所を通る風は、ヴァルデマーさんと娘さんたちの物語を、遠いところまで運んでいくのです。もし耳をすませば、あなたにも聞こえるかもしれませんよ。

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