恋人たち
アンデルセン童話
引き出しの中には、たくさんのおもちゃが暮らしていました。その中に、くるくる回るのが得意なコマくんと、ぴかぴかでまん丸なボールちゃんがいました。
コマくんは、美しいボールちゃんのことが大好きでした。「ボールちゃん、こんにちは!一緒に遊ぼうよ!」と声をかけましたが、ボールちゃんはツンとして言いました。「あなたみたいな木のコマと?私にはね、空を飛ぶツバメさんっていう、とっても素敵な婚約者がいるのよ!」コマくんはしょんぼりしました。それでも、ボールちゃんのことばかり考えながら、毎日くるくる回っていました。
ある晴れた日、ボールちゃんは持ち主の男の子と一緒に外へ遊びに行きました。ボールちゃんは嬉しくて、ぽーん、ぽーんと高く跳ね上がりました。でも、あまりに高く跳ねすぎたので、どこか遠くへ飛んでいってしまい、見えなくなってしまいました。コマくんは心配でたまりませんでしたが、どうすることもできません。
それから、たくさんの月日が流れました。コマくんは持ち主の男の子に金色に塗ってもらい、前よりもずっと立派でかっこよくなりました。ピカピカのコマくんは、みんなの人気者です。
ある日、コマくんが勢いよく回っていると、バランスを崩して、ぽちゃんとゴミ箱の中に落ちてしまいました。「あいたたた…」と起き上がると、隅っこに古くて泥だらけの丸いものがあるのに気づきました。よく見ると、それは昔大好きだったボールちゃんでした!でも、すっかり色あせて、しぼんでしまっています。
ボールちゃんは、金色のコマくんを見て言いました。「あら、あなたはなんて素敵なんでしょう!まるで私が昔あこがれていた、立派なツバメさんみたいだわ!」
コマくんは、昔ボールちゃんのことが大好きだったことを思い出しました。でも、ボールちゃんはコマくんのことなどすっかり忘れているようでした。コマくんは何も言いませんでした。
そこへ、お手伝いさんがやってきて、ゴミ箱の中を片付け始めました。お手伝いさんは金色のコマくんを見つけて、「あら、これはまだきれいね」と言って拾い上げました。でも、汚れたボールちゃんは、他のゴミと一緒に捨てられてしまいました。
コマくんは、新しい場所でまたくるくる回りましたが、時々、あの引き出しのことや、昔のボールちゃんのことをちょっぴり思い出すのでした。
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