• 隠されても忘れられない

    アンデルセン童話
    みんな、針って知ってるかな?そう、お洋服を縫ったりするときに使う、細くて先がとがった道具のことだよ。今日のお話は、そんな一本の針のお話。

    この針はね、自分はとっても細くて、上品な縫い針なんだって、いつも威張っていたんだ。本当は、ちょっと太めの「つくろい針」だったんだけどね。
    「見てごらん、私ほど細くて美しい針はいないわ!」なんて、いつも鼻を高くしていたんだ。

    ある日、料理番のおばさんのスリッパを縫っているときだった。おばさんの指が太くて不器用だったから、針はポキッ!と真ん中で折れてしまった。
    「あらら、もう使えないわね」
    おばさんはそう言ったけど、賢い人だったから、折れた針を捨てる代わりに、自分のスカーフを留めるピンにしたんだ。
    「ふふん、見てごらん。私はブローチになったのよ!前よりもっと素敵でしょ?」
    針はまた得意顔。

    でもね、ある雨の日、おばさんが急いでいたものだから、針はスカーフからポロリと落ちて、道端の排水溝の中に転がり込んでしまった。
    「あらまあ、こんなところに!」
    針はびっくりしたけど、すぐに気を取り直した。
    「ふん、私は太陽の光を浴びれば、ダイヤモンドみたいに輝くのよ!」
    排水溝の中には、割れたガラスのかけらや、濡れた紙くずなんかがいた。針はそいつらに向かって言った。
    「あなたたち、私が誰だか知ってる?私はただの針じゃないのよ。とっても上等な縫い針だったの!今はちょっとお休みしてるだけ!」
    ガラスのかけらは、ただ黙ってキラキラしていた。

    何日かして、太陽がカンカン照りになった。排水溝の水が少し乾いて、針の体に太陽の光が当たった。すると、針はキラキラッ!とまぶしく光ったんだ。
    「まあ、なんてこと!私、本当にダイヤモンドになっちゃったわ!」
    針はうっとり。

    そこへ、数人の子供たちがやってきた。
    「ねえ、あそこ、何か光ってるよ!」
    一人の男の子が排水溝を指さした。
    子供たちは、卵の殻のかけらと一緒に泥の中に埋もれていた光るものを見つけた。
    「わあ、きれいなピンだ!」
    女の子が言った。
    「これ、お人形さんのドレスを飾るのにちょうどいいね!」
    「うん、そうしよう!」

    子供たちは、その針を丁寧に拾い上げて、泥を拭いてくれた。そして、お人形さんの素敵なドレスの胸元に、キラリと飾ってあげたんだ。
    針は、また誰かの役に立てることが嬉しくてたまらなかった。
    排水溝に隠れていたけれど、忘れられていたわけじゃなかったんだね。新しい場所で、新しい役目を見つけて、針はとっても幸せだったんだって。おしまい。

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