幸せな気持ち
アンデルセン童話
とある村に、それはそれは仲の良いおじいさんとおばあさんが暮らしていました。おじいさんはいつもニコニコ、おばあさんもいつもニコニコ。二人を見ているだけで、周りのみんなもなんだか嬉しくなっちゃう、そんな夫婦でした。
ある晴れた日、おじいさんは言いました。「なあ、おばあさん。うちの馬を市場へ連れて行って、何かいいものと取り替えてこようと思うんだが、どうだろう?」
おばあさんはにっこり。「あら、それはいい考えですね、おじいさん。あなたのすることは、いつだって一番いいんですから!」
おじいさんは元気な馬を引いて市場へ出かけました。
市場へ着く途中、おじいさんは立派な乳牛を連れた男の人に出会いました。「こんにちは。その馬、とても元気そうですね。もしよかったら、私のこの乳牛と取り替えませんか?毎日美味しい牛乳が搾れますよ。」
おじいさんは考えました。「うん、馬もいいけど、牛乳もいいなあ。おばあさんも喜ぶだろう。」
「よし、取り替えましょう!」
こうして、おじいさんの馬は乳牛になりました。
しばらく行くと、今度はふかふかの毛をした羊を連れた人に出会いました。「おや、その牛、立派ですね。私のこの羊と取り替えませんか?この羊の毛で、暖かいセーターが編めますよ。」
おじいさんは考えました。「牛乳もいいけど、暖かいセーターもいいなあ。おばあさんも喜ぶだろう。」
「よし、取り替えましょう!」
こうして、おじいさんの乳牛は羊になりました。
またしばらく行くと、大きなガチョウを抱えたおばさんに出会いました。「あら、可愛らしい羊さん。私のこの大きなガチョウと取り替えませんか?美味しいお肉がたくさん取れますし、立派な羽ペンも作れますよ。」
おじいさんは考えました。「セーターもいいけど、美味しいガチョウ料理もいいなあ。羽ペンも便利そうだ。おばあさんも喜ぶだろう。」
「よし、取り替えましょう!」
こうして、おじいさんの羊は大きなガチョウになりました。
さらに行くと、カゴいっぱいに卵を産むめんどりを抱えた男の子に出会いました。「わあ、大きなガチョウだね!僕のこのめんどりと取り替えない?毎日新鮮な卵を産んでくれるよ!」
おじいさんは考えました。「ガチョウもいいけど、毎日卵が食べられるのはもっといいなあ。おばあさんも喜ぶだろう。」
「よし、取り替えましょう!」
こうして、おじいさんのガチョウはめんどりになりました。
市場の入り口まで来たとき、おじいさんはお腹が空いてきました。ふと見ると、リンゴ売りの人が、少し傷んだリンゴを袋いっぱいに詰めて売っていました。「おじさん、このリンゴ、少し傷んでるけど、味はいいよ!めんどりと交換しないかい?」
おじいさんは考えました。「卵もいいけど、今すぐ食べられるリンゴもいいなあ。それに、おばあさんはリンゴのパイが得意だ。少し傷んでいても、パイにすれば美味しいだろう。」
「よし、取り替えましょう!」
こうして、おじいさんのめんどりは、袋いっぱいの傷んだリンゴになりました。
おじいさんはリンゴの袋を抱えて、近くの宿屋で一休みすることにしました。
宿屋には、旅の途中の二人組の紳士がいました。おじいさんが、馬をリンゴと取り替えてきた話をすると、紳士の一人が言いました。「奥さんはきっとカンカンに怒りますよ!馬が一袋の傷んだリンゴになるなんて!」
もう一人の紳士も言いました。「いやいや、もしかしたら、とても心の広い奥さんかもしれない。」
「よし、では賭けをしましょう」と最初の紳士。「もし奥さんが怒らなかったら、この金貨の袋を差し上げます。もし怒ったら、おじいさん、あなたは私たちに何かご馳走してください。」
おじいさんはにっこり。「いいでしょう。うちのおばあさんは、私が何をしても喜んでくれますから。」
おじいさんは二人組の紳士と一緒に家へ帰りました。
「ただいま、おばあさん。」
「あら、お帰りなさい、おじいさん!どうでしたか?」
「うん、まず馬を乳牛と取り替えたんだ。」
「まあ、おじいさん!それは素晴らしい!毎日美味しい牛乳が飲めますね!」
「それから、その乳牛を羊と取り替えたんだ。」
「あらまあ、おじいさん!もっと素晴らしい!羊の毛で暖かい靴下やセーターが編めますものね!」
「その羊を、今度は大きなガチョウと取り替えたんだよ。」
「まあ、なんて賢いんでしょう、おじいさん!ガチョウなら、クリスマスにはご馳走が食べられますね!」
「そして、そのガチョウを、卵を産むめんどりと取り替えたんだ。」
「わあ、おじいさん、最高だわ!めんどりなら毎日新鮮な卵が食べられるじゃないですか!」
「最後にね、そのめんどりを、袋いっぱいの傷んだリンゴと取り替えてきたんだ。」
おばあさんは、おじいさんの顔をじっと見て、それからパッと笑顔になりました。
「まあ、おじいさん!あなたはなんて素晴らしいんでしょう!ちょうどリンゴのパイが作りたいと思っていたところだったのよ!傷んだリンゴだって、パイにすれば美味しくなるわ!それに、隣の奥さんがうちのハーブを欲しがっていたから、このリンゴを少しおすそ分けしたら、きっと喜んでハーブをくれるわ!ああ、おじいさん、あなたは本当に何をやっても最高ね!」
そう言っておばあさんは、おじいさんの頬にキスをしました。
宿屋の二人組の紳士は、顔を見合わせました。そして、おじいさんに金貨の袋を差し出しました。
「おじいさん、あなたの勝ちです。こんなに素晴らしい奥さんはいませんよ!」
おじいさんとおばあさんは、金貨をもらって大喜び。でも、二人にとって一番の宝物は、お互いを信じ合う心と、いつもニコニコしていられる「幸せな気持ち」だったのです。
そして、おばあさんはやっぱり言いました。「ね、言ったでしょう?おじいさんのすることは、いつだって正しいんだから!」
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