• 一粒の涙

    アンデルセン童話
    雲のずーっと上にはね、天使たちが住んでいる、それはそれはきれいな場所があるんだよ。ふわふわの雲のベッドで眠ったり、虹のすべり台で遊んだり、毎日とっても楽しそう。

    ある日、一番小さな天使、リリちゃんが、大きな大きな光につつまれた神様に呼ばれました。
    「リリや、地上へ行って、世界でいちばん美しいものをひとつ、見つけてきておくれ。」
    「はい、神様!いってまいります!」
    リリちゃんは、きらめく羽を広げて、地上へと飛んでいきました。

    地上には、素敵なものがいっぱい!
    キラキラ光る宝石、いい匂いのするお花畑、小鳥たちの楽しい歌声。
    「わあ、どれもきれい!でも、神様がおっしゃった『いちばん美しいもの』って、どれかしら?」
    リリちゃんは、小さな首をかしげました。

    そのとき、リリちゃんは、あるおうちの窓から、優しいおかあさんの姿を見つけました。
    おかあさんの前では、小さな男の子が、大切にしていたおもちゃを、泣いているお友達に「はい、どうぞ」って貸してあげていました。
    それを見たおかあさん、にっこり笑って、男の子の頭をなでました。
    そして、おかあさんの目から、ぽろり。たった一粒、きれいな涙がこぼれ落ちたのです。
    それは悲しい涙じゃありませんでした。男の子の優しい心に、おかあさんの胸がいっぱいになってあふれた、あたたかくて、きらきらした涙でした。

    「これだわ!」
    リリちゃんは、その涙をそっと手のひらにすくいあげました。
    小さくて、まるで朝露みたいだったけど、太陽の光をあびて虹色に輝いています。
    そして何より、おかあさんの「ありがとう」と「大好き」の気持ちが、いーっぱい詰まっているのがわかりました。

    リリちゃんは、その一粒の涙を大切に胸に抱いて、天国へ帰りました。
    「神様、ただいま戻りました!これが、私が見つけた『いちばん美しいもの』です!」
    リリちゃんが手のひらを開くと、小さな涙が、それはそれは優しく光りました。

    神様は、にっこりうなずきました。
    「リリや、よく見つけてきたね。それは、どんな宝石よりも、どんなお花よりも美しい。なぜなら、それは『愛』でできているからだよ。人の優しい心から生まれた、愛のしずくだからね。」

    その一粒の涙は、天国でひときわ明るく輝く、小さくて可愛らしい星になりました。
    そして、今でも空の上から、優しい心を持つ子どもたちと、そのおかあさんたちを、キラキラと見守っているんですって。

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