誰が一番幸せか
アンデルセン童話
ある春の日、お日さまがぽかぽかと暖かく、お庭は花や虫たちでとってもにぎやかでした。
「ねえ、みんなの中で、だれがいちばん幸せかしら?」
きれいな赤いバラが、ふわりと良い香りをさせながら言いました。
「それはもちろん、わたしよ! 見て、この美しい姿。みんなわたしを見て、うっとりするじゃない。」
ひらひらと飛んできたチョウが、バラの周りをくるりと一回りして言いました。
「うーん、バラさんも素敵だけど、いちばん幸せなのは、わたしだと思うわ! だって、自由に空を飛んで、甘い蜜を好きなだけ吸えるんですもの。こんなに楽しいことはないわ!」
すると、葉っぱの上をゆっくりと進んでいたカタツムリが、のっそり顔を出しました。
「ふふん、わしじゃよ、わし。お家を背負って、どこへでも行ける。雨の日なんて、他のみんなは困るじゃろうが、わしにとっては最高のお散歩日和じゃ。急ぐ必要もないし、のんびり暮らすのが一番幸せなんじゃよ。」
そのとき、夕方になって、小さな光がチカチカと現れました。ホタルです。
「僕は、夜にみんなを照らすこの一瞬が、とっても幸せだよ。短い時間かもしれないけど、僕の光を見て喜んでくれる人がいるんだ。それが僕の幸せさ!」
みんなの話を聞いていたお庭の隅の大きな古い木が、静かに言いました。
「ふむ、みんなそれぞれに、自分だけの素敵な幸せを持っているんじゃなあ。美しいバラさんも、自由に飛び回るチョウさんも、自分のペースで生きるカタツムリさんも、一瞬を輝くホタルさんも、みんな、とっても幸せそうじゃ。誰か一人が一番、というわけではないのかもしれんのう。」
それを聞いて、バラもチョウもカタツムリもホタルも、なんだか納得したように静かになりました。
お日さまが沈んで、お月さまが顔を出す頃には、みんなそれぞれの幸せを胸に、すやすやと眠りについたのでした。
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