• 引越しの日

    アンデルセン童話
    町のはずれの、ちょっと古いけれど居心地のいいお家がありました。その家では、おばあさんが何やら忙しそうにしています。「さあ、お引越しの日が来たよ!」おばあさんの声が家中に響きました。

    部屋の隅っこで、小さなホコリのワタちゃんとスーちゃんがひそひそ話をしていました。「大変だ、お引越しだって!私たちのふわふわベッドはどうなるのかしら?」ワタちゃんが心配そうに言いました。「本当ね。この隅っこ、とっても落ち着くのに」スーちゃんもため息をつきました。彼女たちは、この家の隅っこで、日向ぼっこをしたり、クモの巣のハンモックで遊んだりするのが大好きだったのです。

    壁の穴からは、ネズミのチュウキチとチュウコが顔を出して、心配そうに見ていました。「人間さんたちがいなくなったら、パンくずもチーズのかけらもなくなっちゃうのかなあ」チュウキチがつぶやきました。「新しいお家は、ネコがいないといいけど…」チュウコはもっと心配です。彼らにとって、この家は食べ物の宝庫でした。

    いよいよお引越しの日。大きなトラックがやってきて、家具や箱が次々と運び出されていきます。ワタちゃんとスーちゃんは、どうしようかと考えた末、そっとカーテンのひだに隠れて、一緒に連れて行ってもらうことにしました。「しーっ、息をひそめて!」
    チュウキチとチュウコは、一番大きなダンボール箱、おばあさんの大切な編み物道具が入った箱にこっそり忍び込みました。「ここなら安全だし、毛糸の匂いもいい感じ!」

    ガタゴト揺られて、みんなは新しいお家に到着しました。
    新しいお家は、ピカピカで、まだ誰も住んでいない匂いがしました。「わあ、きれいすぎるわ」ワタちゃんはちょっとがっかり。「私たちの隠れる場所、あるかしら?」スーちゃんも不安そうです。
    チュウキチとチュウコも、箱からそろーっと出てきましたが、隠れる場所を探してキョロキョロ。なんだか落ち着きません。

    でも、心配はいりませんでした。おばあさんが荷物を解き始めると、だんだんとお馴染みの匂いがしてきました。ソファが置かれ、本棚が組み立てられ…。
    ワタちゃんとスーちゃんは、さっそくソファの下の新しいお気に入りの隅っこを見つけました。「ここなら安心ね!前のお家みたいに、すぐにふわふわになるわ!」二人は顔を見合わせてにっこり。
    チュウキチとチュウコも、キッチンからいい匂いがしてくるのを見逃しませんでした。床に落ちた小さなビスケットのかけらを見つけて、大喜び!「やったー!ここも住めそうだぞ!」壁と食器棚の間に、ちょうどいい隠れ家も見つけました。

    新しいお家も、あっという間にいつもの「お家」になりました。おばあさんも、ワタちゃんもスーちゃんも、チュウキチもチュウコも、みんな新しい場所で、また楽しく暮らし始めたのです。お引越しって、ちょっとドキドキするけど、新しい発見もあって楽しいものですね。そして、どんなお家にも、小さな住人たちがこっそり暮らしているのかもしれませんよ。

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