沼の王の娘
アンデルセン童話
コウノトリさんたちが、エジプトのあたたかい空を飛んでいました。もっと北の、ずっと寒い国へ向かう途中です。
そのとき、一羽のコウノトリが、ナイル川のほとりで美しいお姫様を見つけました。お姫様は病気で、もう長くは生きられない様子。腕には、かわいい赤ちゃんと、きれいな蓮の花を抱いていました。
「お願い、コウノトリさん。この子を北の国へ連れて行って。そして、この花も一緒に」お姫様はそう言うと、静かに目を閉じました。
コウノトリさんたちは赤ちゃんを大切に運び、沼地(ぬまち)の王様の住む、暗くてじめじめした場所へたどり着きました。
沼地の王様の奥さんは、カエルのような姿をしていて、ずっと赤ちゃんが欲しいと思っていました。「まあ、なんてかわいい赤ちゃんでしょう!」奥さんは大喜びで赤ちゃんを抱き上げました。でも、蓮の花のことはすっかり忘れて、沼の底にポチャンと落としてしまいました。
赤ちゃんはヘルガと名付けられました。
ヘルガは昼間は、お母さんそっくりの、それはそれは美しい女の子。心も優しくて、みんなに愛されました。
でも、夜になると大変!沼地の王様の娘らしく、意地悪で醜い姿に変わってしまうのです。まるで二つの心を持っているみたいでした。
ある日、海賊たちが村を襲い、ヘルガは遠い北の国へ連れて行かれてしまいました。そこで、心優しい神父様に出会います。
神父様は、昼の美しいヘルガと、夜の恐ろしいヘルガを見て、とても心配しました。「どうしてだろう?」神父様は毎日ヘルガのためにお祈りをしました。
ある夜、ヘルガは不思議な夢を見ました。夢の中で、エジプトのお母さんが出てきて、沼に沈んだ蓮の花のことを教えてくれたのです。「あの花だけが、あなたを救うことができるのよ」と。
ヘルガは勇気を出して、沼地へ戻る決心をしました。長い長い旅の末、やっと沼地に着くと、泥の中からあの蓮の花を見つけ出しました。
ヘルガが花に触れると、不思議な光が彼女を包みました。夜の醜い姿は消え、昼も夜も、心も体も美しいヘルガになったのです!沼地の呪いが解けたのでした。
コウノトリさんたちも、この様子を空から見ていて、とても喜びました。ヘルガはその後、立派な王様と結婚して、いつまでも幸せに暮らしたということです。
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