「ああ、かわいい赤ちゃんがいたらなあ。」いつもそう思っている、優しい女の人がいました。ある日、女の人は魔法使いのおばあさんから、ふしぎな麦のつぶをもらいました。「これを植えてごらん」と言われて、大切に植木鉢に植えると、あら不思議！きれいなチューリップみたいな花が咲いて、その花びらがそっと開くと、中にはとっても小さな、親指くらいの女の子が座っていたのです！

女の人は大喜び。「まあ、なんてかわいいんでしょう！そうだわ、おやゆび姫と名付けよう」と、女の子を「おやゆび姫」と呼びました。おやゆび姫は、くるみの殻のベッドで、バラの花びらのお布団をかけて眠っていました。

そこへ、夜中にゲコゲコと大きなヒキガエルがやってきました。「うちの息子のお嫁さんにぴったりだ！」ヒキガエルはそう思うと、おやゆび姫をさらって、スイレンの葉っぱの上に置いてしまいました。おやゆび姫が目を覚ますと、びっくり！「助けて！」小さな魚たちがその声を聞いて、スイレンの茎をかじって助けてくれました。葉っぱはゆらゆらと流れ始めます。白い蝶々がひらひら飛んできて、おやゆび姫は自分の帯を蝶々の足に結びました。これで、もっと早く進めます。

そこへ、ブーンと大きなコガネムシが飛んできて、おやゆび姫をさらっていきました。でも、他のコガネムシたちが「なんだか変な子だね、足が二本しかないよ」と笑うので、コガネムシはおやゆび姫をポイと野原に捨ててしまいました。

おやゆび姫は、夏と秋をたった一人で過ごしました。甘い花の蜜を吸い、草の葉っぱの露を飲んで。でも、だんだん寒くなってきました。冬がやってきたのです。雪が降り、おやゆび姫は凍えそうでした。そのとき、温かいおうちを見つけました。それは、野ネズミのおばあさんのおうちでした。

野ネズミのおばあさんは親切で、おやゆび姫に食べ物と寝床をくれました。お隣には、お金持ちのモグラさんが住んでいました。モグラさんはおやゆび姫を見て、お嫁さんにしたいと思いました。でも、おやゆび姫はモグラさんが好きではありませんでした。だって、モグラさんは太陽の光が嫌いで、暗い土の中ばかり。お花も好きじゃないのです。

ある日、おやゆび姫は、野ネズミさんとモグラさんの家の間のトンネルで、冷たくなったツバメを見つけました。「かわいそうに…」おやゆび姫は、こっそりツバメを温め、お世話をしました。すると、ツバメは元気になったのです！「ありがとう、おやゆび姫。僕と一緒に暖かい南の国へ行こうよ」とツバメは言いました。でも、おやゆび姫は野ネズミのおばあさんにお世話になっているからと、一度は断りました。

いよいよモグラさんとの結婚式の日が近づいてきました。おやゆび姫は悲しくてたまりません。最後にお日様にご挨拶しようと外に出ると、そこにあのツバメが待っていました。「さあ、乗って！」今度こそ、おやゆび姫はツバメの背中に乗りました。

ツバメはびゅーんと飛んで、暖かい、お花のいっぱ咲いている国へ着きました。ツバメは、おやゆび姫を大きな白い花の上にそっと降ろしました。すると、その花の中から、おやゆび姫とそっくりの、小さな小さな王子様が現れました。頭には金の冠をかぶっています。

王子様はおやゆび姫に言いました。「なんて美しいのでしょう。どうか僕のお妃様になってください」
おやゆび姫はにっこり。「はい！」と答えました。王子様は、おやゆび姫に透明な美しい羽をプレゼントし、「マイア」という新しい名前をつけました。こうして、おやゆび姫は花の国の女王様になり、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

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