• ワイシャツの襟

    アンデルセン童話
    むかしむかし、というほど昔でもないけれど、あるところに、とってもおしゃれな紳士がいました。その紳士が持っていたシャツの中に、一枚だけ、とくべつ自分がえらいと思っている「えり」がいました。

    「ぼくは、まっしろで、パリッとしていて、だれよりもかっこいいんだ!」えりくんはいつもそう思っていました。

    ある日、えりくんは、美しいガーターベルトさんに出会いました。「こんにちは、ガーターベルトさん。ぼくは世界でいちばんすてきなえりだよ。ぼくとお話ししない?」
    でも、ガーターベルトさんは、えりくんがあまりにもじぶんのことばかり話すので、ちょっとびっくりしてしまいました。「あら、あなたはとってもおしゃべりなのね」とだけ言って、行ってしまいました。

    えりくんはがっかりしましたが、すぐに気を取り直しました。「ふん、ぼくの魅力がわからないなんて、かわいそうに!」

    その後、えりくんは何度も洗濯されて、だんだんくたびれてきました。紳士も、もうこのえりは古いな、と思うようになりました。
    とうとう、えりくんは、古着屋さんに売られてしまいました。そこでも、えりくんは「ぼくはもともと、とってもえらい紳士のえりだったんだぞ!」と、ほかの古着たちにじまんしていました。

    ある日、えりくんは、大きな紙工場へ連れていかれました。
    「ええっ、ぼくはどうなっちゃうの?」
    えりくんは、ほかの古い布きれたちと一緒に、大きな機械に入れられて、ぐちゃぐちゃにされて、どろどろの液体にされてしまいました。そして、うすーくのばされて、まっしろな紙になったのです。

    「わあ、ぼく、紙になっちゃった!」えりくんはびっくりしました。でも、まっしろで、きれいな紙です。
    「これなら、また何かすてきなことに使ってもらえるかもしれないぞ!」

    そして、なんと、そのまっしろな紙には、えりさんのものがたりがぜんぶ書かれたのです!えりくんが、どれだけ自分がすばらしいと思っていたか、ガーターベルトさんにふられたこと、そして紙になったことまで、ぜーんぶです。
    その物語が書かれた紙は、本になって、たくさんの人に読まれました。

    えりくんは、もうシャツのえりではありませんでしたが、自分の物語がたくさんの人に読まれるのを知って、ちょっぴりうれしくなりました。
    「ふふん、やっぱりぼくは、ただのえりじゃなかったんだ!」
    紙になったえりくんは、本の中で、いつまでも自分の物語を語り続けるのでした。

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