古い家
アンデルセン童話
町のはずれに、それはそれは古いお家が一軒、ぽつんと立っていました。屋根は少し傾いて、壁にはツタがからまり、窓もなんだか眠たそう。まわりのピカピカ光る新しいお家たちは、「やーい、古くさいお家!」なんて、ちょっといじわるな目で見ていました。
でも、その古いお家の向かいに住んでいる小さな男の子は、このお家が大好きでした。だって、なんだか秘密がいっぱい隠れていそうだったからです。男の子は毎日、窓からそっと古いお家を眺めていました。
ある晴れた日、古いお家の窓が少しだけ開いて、中から優しい顔のおじいさんが出てきました。おじいさんは、男の子に気づくと、にっこり笑って手招きしました。「おいで、おいで。面白いものを見せてあげよう。」
男の子はドキドキしながらお庭に入り、おじいさんに連れられてお家の中へ。中は薄暗かったけれど、たくさんの不思議なものでいっぱいでした!ピカピカに磨かれたブリキの兵隊さん、絵がたくさん描かれた古い本、今にもおしゃべりしそうな動物の置物。壁には、昔の人の大きな絵がかかっていて、まるで男の子に話しかけているようでした。
おじいさんは、一つ一つのものについて、面白いお話をしてくれました。ブリキの兵隊さんは、昔々、勇敢に戦ったんだとか。古い本には、遠い国のお姫様や竜の物語が描かれていました。男の子は目をキラキラさせて、おじいさんの話に聞き入りました。
それからというもの、男の子は毎日古いお家に遊びに行くようになりました。おじいさんと一緒に古い宝物を見たり、お庭で花に水をやったり。二人はすっかり仲良しになりました。
でも、ある寒い冬の日、おじいさんは遠いお空の星になってしまいました。古いお家は静かになり、男の子はとても寂しくなりました。
しばらくして、古いお家は取り壊されることになりました。男の子は悲しい気持ちで、その様子を窓からじっと見ていました。ガシャン、ゴトン。お家が少しずつなくなっていきます。
全部壊されてしまった後、男の子がしょんぼりしながら跡地を見に行くと、がれきの中に何かキラリと光るものを見つけました。それは、あのブリキの兵隊さんでした!片方の足が少し曲がっていましたが、ちゃんと立っていました。
男の子は兵隊さんをそっと拾い上げ、大切にポケットにしまいました。古いお家はなくなってしまったけれど、ブリキの兵隊さんを見るたび、男の子はおじいさんとの楽しい時間や、不思議なものでいっぱいのあのお部屋を思い出しました。そして、古いものの中には、たくさんの素敵な思い出が詰まっているんだな、と温かい気持ちになるのでした。
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