• フレイとゲルズ

    北欧神話
    太陽のように明るい神様、フレイがいました。フレイは、いつもニコニコしていて、みんなに豊作と平和をもたらす、とても優しい神様です。

    ある日のこと、フレイは神々の王様オーディンが座る特別な高い椅子、「フリズスキャールヴ」に、こっそり座ってみました。その椅子からは、世界のすみずみまで見渡せるのです。フレイの目は、遠い北の国、巨人たちが住むヨトゥンヘイムに向けられました。

    すると、どうでしょう!そこに、それはそれは美しい娘さんが立っているではありませんか。彼女の名前はゲルズ。巨人ギュミルのお屋敷の庭で、腕をキラキラと輝かせながら歩いていました。その姿を見た瞬間、フレイの心臓はドキーン!と大きく鳴り、一目でゲルズに恋をしてしまったのです。

    アスガルドに帰ってきたフレイは、すっかり元気がなくなってしまいました。大好きだったお日様の光も、おいしいごちそうも、楽しいおしゃべりも、何もかも色あせて見えます。ただ、ため息ばかりついているのです。

    お父さんのニョルズ神も、継母のスカジ女神も心配しました。「フレイ、どうしたのだ?何かあったのか?」と聞いても、フレイは首をふるばかり。

    困ったニョルズたちは、フレイの一番の家来であり、親友でもあるスキールニルを呼びました。スキールニルは賢くて勇敢な若者です。
    「フレイ様、どうか私に話してください。何かお悩みがあるのでしょう?」
    スキールニルの優しい言葉に、フレイはとうとう打ち明けました。
    「スキールニル…私は恋をしてしまったのだ。ヨトゥンヘイムのゲルズという娘に。彼女なしでは、もう生きていけないほどだ。」

    「それは大変です!でも、フレイ様、私が何とかしましょう!」スキールニルは力強く言いました。
    フレイは喜び、スキールニルに自分の持つ不思議な剣を渡しました。その剣は、持ち主がいなくても自分で戦うことができる魔法の剣です。そして、どんな道でも駆けることができるフレイの馬も貸しました。
    「この剣と馬を使い、ヨトゥンヘイムへ行って、ゲルズに私の気持ちを伝えてきてほしい。そして、もし彼女が来てくれるなら…」

    スキールニルは馬にまたがり、あっという間にヨトゥンヘイムのゲルズの家に着きました。ゲルズの家は、恐ろしい番犬たちと、燃えさかる炎の輪で守られていましたが、スキールニルは知恵と勇気でそれを乗り越え、ゲルズに会うことができました。

    「美しいゲルズさん。私の主であるフレイ様が、あなたに深く恋焦がれておられます。どうか、フレイ様と結婚していただけませんか?」
    スキールニルは、フレイからの贈り物として、黄金に輝くリンゴや、素晴らしい腕輪を見せました。
    しかし、ゲルズは首を横に振りました。「私は神様とは結婚したくありません。」

    スキールニルは困りました。でも、諦めません。
    「もしフレイ様の愛を受け入れなければ、あなたは一生、寂しい思いをするかもしれません。誰もあなたを愛さず、いつも一人ぼっちで、悲しい花のようにしおれてしまうかもしれませんよ。」
    スキールニルは、フレイの剣をちらつかせながら、少しだけ怖い魔法の言葉も使いました。

    ゲルズは、スキールニルの真剣な様子と、フレイの深い愛情を感じ取り、少し心が動きました。そして、考えた末にこう言いました。
    「わかりました。九日後の夜、バッリという静かな森で、フレイ様にお会いしましょう。」

    スキールニルは大喜びでアスガルドへ帰り、フレイにこの良い知らせを伝えました。
    フレイはゲルズに会えることになって、天にも昇る気持ちでしたが、同時にこう嘆きました。
    「九日も待たなければならないのか!ああ、一日がまるで一年のように長い。三日だって長すぎるのに、九日なんて!」

    それでもフレイは、その日を指折り数えて待ちました。そして九日目の夜、バッリの森で、フレイは愛するゲルズと再会し、二人は手を取り合って、幸せに結ばれたということです。フレイは、ゲルズを得るために大切な魔法の剣をスキールニルに褒美としてあげてしまいましたが、それでも彼は世界で一番幸せな神様になったのでした。

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