• スカジとニョルズ

    北欧神話
    雪と氷がきらめく、高い高い山のてっぺんに、元気な女神スカジが住んでいました。スカジはスキーがとっても上手で、狩りも得意。冬の山が大好きでした。

    ある日、スカジのお父さん、巨人スィアチが神様たちとのちょっとしたいさかいで、遠いところへ行ってしまいました。スカジはとっても悲しくて、そして怒りました。「お父さんのこと、どうしてくれるの!」と、神様たちの住むアースガルズへ、一人で乗り込んでいったのです。

    神様たちは、強いスカジがやってきたのでびっくり。オーディン神は言いました。「スカジよ、きみの悲しみはわかる。お詫びに、三つの願いをかなえよう。」

    スカジは考えました。一つ目は、「私を笑わせること」。悲しくて、ずっと笑っていなかったからです。
    二つ目は、「お父さんの目を、夜空の星にすること」。
    そして三つ目は、「神様の中から、結婚相手を選ぶこと」。

    神様たちは、「よし、わかった!」と答えました。
    まず、いたずら好きのロキが出てきました。ロキはヤギのひげを自分にくっつけて、へんてこな踊りを踊りだしたのです。それがあまりにおかしくて、スカジはとうとう声をあげて笑ってしまいました。一つ目の願いはクリアです。

    次に、オーディン神はスィアチの目を空に投げ上げました。すると、二つの明るい星になってキラキラと輝きだしました。スカジは空を見上げて、少し心が安らぎました。

    さあ、最後は結婚相手選びです。でも、ちょっと変わったルールがありました。神様たちはカーテンの後ろに隠れて、足だけを出すのです。スカジは、その足だけを見て、相手を選ばなければなりません。
    スカジは、一番きれいで、雪のように白いすべすべの足を選びました。「きっと、美しいバルドル神の足ね!」とスカジは思いました。
    ところが、カーテンが開くと、そこにいたのは海の神ニョルズでした。ニョルズはいつも海辺を歩いているので、足がとてもきれいだったのです。

    こうして、スカジとニョルズは結婚しました。
    でも、二人の好きなものは、まるで違いました。
    スカジは山の静けさと、オオカミの遠吠え、そして雪の冷たさが大好き。
    ニョルズは海の賑やかさと、カモメの鳴き声、そして船の揺れが大好き。

    二人はまず、ニョルズの海辺の家で九日間暮らしました。
    スカジは言いました。「ここではカモメがうるさくて眠れないわ。波の音も大きすぎる。」
    次に、スカジの山の家で九日間暮らしました。
    ニョルズは言いました。「ここではオオカミの声が怖くて眠れないよ。それに寒すぎるし、静かすぎる。」

    うーん、困りました。二人はお互いのことが嫌いなわけではありません。でも、一緒に暮らすのは難しいようです。
    そこで、二人は話し合いました。「やっぱり、私たちは別々に暮らすのが一番いいね。」
    スカジはニョルズににっこり笑いかけ、ニョルズもスカジに優しくうなずきました。

    こうして、スカジは愛する雪山へ帰り、スキーをしたり狩りをしたりして楽しく暮らしました。ニョルズも心地よい海辺へ戻り、船に乗ったり魚を釣ったりして幸せに過ごしました。
    二人は時々会って、お互いの話をする、良い友達になったということです。
    めでたし、めでたし…とはちょっと違うけれど、二人とも自分の好きな場所で幸せに暮らしたそうです。

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