フレイヤとブリーシンガメンの首飾り
北欧神話
空に大きな虹がかかるよりも、もっともっと昔のこと。北の国には、フレイヤという、それはそれは美しい女神さまがいました。フレイヤは、キラキラと輝くものが大好きでした。
ある日、フレイヤが野原をお散歩していると、山のふもとから、トントン、カンカン、不思議な音が聞こえてきました。
「あら、何の音かしら?」
フレイヤが音のする方へ行ってみると、そこには小さな洞窟があって、中では四人の小人さんたちが何かを作っていました。小人さんたちは、ドワーフと呼ばれる、もの作りの名人です。アルフリッグ、ドヴァリン、ベルリング、そしてグレーという名前でした。
フレイヤがそっと中をのぞくと、まあ、なんてことでしょう! 小人さんたちが作っていたのは、金と宝石でできた、まばゆいばかりに美しい首飾りでした。太陽の光を集めたようにキラキラと輝き、虹の色がきらめいています。フレイヤは、その首飾り「ブリーシンガメン」を一目見て、すっかり心を奪われてしまいました。
「なんて素敵な首飾りなの! どうしても欲しいわ!」
フレイヤは小人さんたちに声をかけました。
「こんにちは、小人さんたち。その首飾り、私に売ってはくれないかしら? 金でも銀でも、欲しいものは何でもあげるわ。」
すると、小人さんたちの一人が言いました。
「フレイヤさま、この首飾りは特別なもの。お金ではお譲りできません。」
「では、どうしたら譲ってくれるの?」フレイヤはしょんぼりしました。
小人さんたちは顔を見合わせ、ひそひそと相談しました。そして、こう言ったのです。
「フレイヤさま、もしこの首飾りが本当にほしいなら、わたしたち一人一人と、一日ずつ、合わせて四日間、一緒に洞窟で過ごして、楽しいお話を聞かせてはくれませんか?」
フレイヤは少し考えましたが、あの美しい首飾りのことが頭から離れません。
「わかったわ。あなたたちの言う通りにしましょう。」
そしてフレイヤは、四日間、小人さんたちと洞窟で過ごし、毎日楽しいお話をしてあげました。小人さんたちは大喜びです。
約束の四日間が終わると、小人さんたちはフレイヤにブリーシンガメンを渡しました。
「まあ、ありがとう!」
フレイヤは首飾りをつけ、それはもう大喜び。首飾りはフレイヤの白い肌に映えて、ますます美しく輝きました。
ところが、このことを、いたずら好きの神様ロキが知ってしまいました。ロキは、いつも何か面白いことや騒ぎが起きないかと探しているのです。
「これは面白いことになりそうだぞ。」
ロキは、神々の王であるオーディンのところへ飛んでいき、フレイヤがどうやって首飾りを手に入れたのか、こっそり教えました。
オーディンはそれを聞いて、カンカンに怒りました。
「フレイヤめ、そんなはしたない方法で首飾りを手に入れるとは! ロキよ、すぐにその首飾りを取り上げてくるのだ!」
ロキは大喜びでフレイヤの宮殿へ向かいました。フレイヤはブリーシンガメンをつけたまま、ぐっすり眠っています。でも、首飾りの留め金はしっかりとしまっていて、簡単には外せません。
「うーん、どうしたものか。」
ロキは小さな小さなハエに変身すると、フレイヤの頬にチクリ。
「ん……」
フレイヤが寝返りをうったその時、首飾りの留め金が緩みました。しめたとばかりに、ロキは素早く首飾りを盗んで、オーディンの元へ持ち帰りました。
朝、目が覚めたフレイヤはびっくり! 大切なブリーシンガメンがありません。
「わたしの首飾りがどこにもないわ!」
フレイヤは悲しくて、おいおい泣き出してしまいました。
その様子を見ていたのが、神々の見張り番をしているヘイムダルという神様です。ヘイムダルは遠くの音も聞こえるし、小さなものも見逃しません。彼はロキが首飾りを盗んだのを見ていたのです。
「フレイヤさま、お泣きにならないで。ロキが盗んだに違いありません。私が取り返してきましょう。」
ヘイムダルはすぐにロキを追いかけました。
ロキは首飾りを持って逃げ回りましたが、とうとう海のそばでヘイムダルに追いつかれてしまいました。
「ロキ!フレイヤさまの首飾りを返しなさい!」
「いやだね!これはオーディンさまの命令だ!」
二人はアザラシの姿に変身して、海の中で首飾りを奪い合いました。ドッボーン!バッシャーン!としばらく争った末、ついにヘイムダルが首飾りを取り返し、フレイヤの元へ届けました。
「まあ、ヘイムダル!ありがとう!」
フレイヤは再び首飾りを手にすることができて、心から喜びました。
オーディンは、フレイヤが深く反省しているのを見て、今回は許してあげることにしました。でも、こう言いました。
「フレイヤよ、美しいものを欲しがるのは良い。だが、そのためにもっと大切なことを見失ってはいけないよ。」
フレイヤはその言葉を胸に、ブリーシンガメンを前よりもっと大切にしました。そして、その輝きは、フレイヤの美しさをいつまでも引き立てたということです。
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