アスガルドの城壁の築造
北欧神話
アスガルドの神様たちは、ちょっと困っていました。自分たちの住む美しいアスガルドの都に、もっと強くて立派な壁が欲しいと思ったのです。でも、自分たちで作るのは大変そう。
そんなとき、ひょっこり一人の男がやってきました。「私が壁を作りましょう」と男は言いました。
「ほう、それは助かるが、いつまでにできるのかね?」とオーディン神様が尋ねました。
男はニヤリと笑って、「たった一つの冬の間に、たった一人で完成させてみせましょう。ただし、もし完成できたら、美しいフレイヤ様と、太陽と月をください」と言いました。
神様たちはびっくり!「そんなの無理だ!フレイヤ様も太陽も月もあげられないよ!」と大騒ぎ。
でも、いたずら好きのロキ神様が言いました。「大丈夫、大丈夫。たった一人で、しかも馬の助けもなしに、冬が終わるまでに壁なんて作れるわけないさ。もしできそうになったら、僕がなんとかするよ。だから、やらせてみようよ」。
他の神様たちも、「まあ、ロキが言うなら…」と、男の挑戦を受けることにしました。ただし、「手伝ってくれるのは、君の馬一頭だけだぞ」という条件をつけました。
男はスヴァジルファリという、ものすごく力持ちの賢い馬を連れていました。男が大きな石を切り出すと、スヴァジルファリがそれを軽々と運び、壁はぐんぐん高く、長くなっていきました。神様たちは、「本当にできちゃうかも!」とだんだん心配になってきました。
冬が終わるまであと三日。壁はほとんど完成しそうです!神様たちは真っ青。「どうしよう、フレイヤ様も太陽も月も取られちゃう!」みんなロキをにらみました。「ロキ、なんとかするって言ったじゃないか!」
ロキは困った神様たちを見て、にやりと笑うと、こっそり美しい牝馬(めすうま)に変身しました。そして、スヴァジルファリが石を運んでいるそばを、わざと魅力的に走り抜けたのです。
スヴァジルファリは「おや?」とその美しい牝馬にすっかり心を奪われ、仕事を放り出して、牝馬を追いかけて森の奥へ行ってしまいました。
男は一人では大きな石を運べません。「私の馬はどこだ!これでは間に合わない!」とカンカンに怒り、とうとう本当の姿、大きな大きな霜の巨人の姿を現しました!
「だまされたな!」巨人が叫んだそのとき、雷神トールがやってきて、ムジョルニアという魔法のハンマーで、ドシーン!と巨人をやっつけました。
こうしてアスガルドは守られ、壁もほとんど完成しました。
しばらくして、ロキは八本足の不思議な子馬を連れて帰ってきました。それがスレイプニル。スヴァジルファリと、牝馬に化けたロキの間に生まれた子馬で、後にオーディン神様の愛馬になったんですよ。
アスガルドの壁は、ちょっと変わった方法で、でもちゃんと完成したのでした。めでたし、めでたし。
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