強盗の花婿
グリム童話
とある村に、それはそれは美しい娘さんがいました。お父さんは粉屋さんで、娘に素敵な結婚相手を見つけてあげたいと思っていました。
ある日、とてもお金持ちそうな立派な紳士がやってきて、娘さんにお嫁にほしいと言いました。でも、娘さんはなぜだか、その紳士のことが少し怖いような、変な感じがしていました。それでも、お父さんは大喜びで、結婚の準備を進めることにしました。
紳士は言いました。「私の家は森の奥にあるんだ。結婚式の前に、一度遊びにおいでよ。」
娘さんはあまり行きたくありませんでしたが、お父さんの手前、断れません。そこで、賢い娘さんは、道に迷わないように、そして何かあったときのために、ポケットにこっそり豆をたくさん入れました。
森へ行く日、娘さんは紳士の家へ向かいながら、道々、少しずつ豆を落として、帰り道の目印にしたのです。森はどんどん深くなり、なんだか気味が悪くなってきました。
すると、一羽の小鳥が木の枝でさえずりました。
「お嬢さん、お嬢さん、引き返しなさいな。
そこは泥棒の家、人殺しの家ですよ!」
娘さんはドキッとしましたが、紳士は「気にするな、ただの鳥の鳴き声さ」と笑います。でも、娘さんの胸騒ぎは大きくなるばかりでした。
やっと着いた家は、大きくて立派でしたが、なんだか薄暗くて静まり返っています。紳士は「ちょっと準備があるから、ここで待っていて」と言って、どこかへ行ってしまいました。
家の中は誰もいないようで、シーンとしています。娘さんが不安に思っていると、地下室から、か細い声が聞こえました。
「もしもし、誰かいませんか?」
娘さんが地下室へ行ってみると、そこには優しいおばあさんが一人、大きな鍋で何かを煮ていました。
おばあさんは娘さんを見て、びっくりした顔で言いました。
「おやまあ、かわいそうに。こんなところへ来ちゃいけないよ。ここは恐ろしい泥棒たちの隠れ家でね、あの男も泥棒の頭さ。帰ってきたら、あんたはひどい目に遭わされちまうよ!」
娘さんは真っ青になりました。
「どうしましょう!」
「大丈夫、私が大きな樽の後ろに隠してあげるから。静かにしているんだよ。」
おばあさんは娘さんを大きな樽の後ろに隠してくれました。
しばらくすると、ガラガラドンドンと乱暴な音がして、泥棒たちが帰ってきました。彼らは、もう一人、可哀想な娘さんを捕まえてきていました。そして…ああ、なんてことでしょう!泥棒たちはその娘さんにひどいことをして、おばあさんに料理しろと命令したのです。
娘さんがかわいそうに思っていると、泥棒の一人が捕まっていた娘さんの指にはまっていた金の指輪を奪おうとしました。指輪がなかなか抜けなかったので、斧でその指を切り落としてしまいました。
その指が、ぴょーんと飛んで、なんと隠れていた娘さんのひざの上に落ちたのです!指にはきれいな指輪がはまっていました。娘さんは怖くてたまりませんでしたが、じっと息を殺していました。
おばあさんは泥棒たちにたくさんお酒を飲ませました。やがて泥棒たちが酔っぱらって眠り込んだすきに、おばあさんは隠れていた娘さんを助け出してくれました。
「さあ、今のうちに逃げるんだよ!豆の目印をたどって、まっすぐお帰り。」
娘さんはおばあさんにお礼を言って、急いで家を飛び出し、落としておいた豆を頼りに、無事自分の村へ帰ることができました。もちろん、あの指輪のついた指も一緒に。
数日後、いよいよ結婚式の日がやってきました。たくさんの人が集まり、ごちそうが並びます。花婿の紳士、つまりあの泥棒の頭も、何食わぬ顔でニコニコしています。
食事が始まると、花嫁の娘さんは言いました。
「みなさん、私が昨夜見た夢の話を聞いてくださいませんか?」
みんなが「聞かせて、聞かせて」と言うと、娘さんは話し始めました。
「私は夢の中で、一人で森の中を歩いていました。すると、薄暗い大きな家に着きました。家の中には誰もいなくて、地下室に行くと、優しいおばあさんがいました。おばあさんは私を樽の後ろに隠してくれました。やがて泥棒たちが帰ってきて、一人の娘さんを捕まえてきました。そして、その娘さんの指輪を奪おうとして、指を切り落としたのです。その指が、ぴょーんと飛んできて…」
ここまで話すと、娘さんはすっと立ち上がり、言いました。
「…私のところに落ちてきたのです!そして、その指がこれです!」
そう言って、娘さんは隠し持っていた指輪のはまった指をみんなに見せました。
それを見た花婿の紳士は、顔が真っ青になりました。会場は騒然となりました。
すぐに兵隊たちがやってきて、悪い泥棒の頭とその仲間たちはみんな捕まえられました。
娘さんは勇気を出して真実を語り、自分だけでなく、これから犠牲になるかもしれなかった人々も救ったのです。そして、その後、本当に心優しい人と結婚して、幸せに暮らしましたとさ。
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