• ディアナと狩猟と月の女神

    ローマ神話
    狩りがとっても上手な、ディアナという名前の女神さまがいました。ディアナさまは、夜空に輝くお月さまのようにつめたく美しく、森の動物たちとも大の仲良し。いつも森の妖精たちと一緒に、弓矢を手に森を駆けまわっていました。

    ある暑い日のことです。ディアナさまは、お気に入りの泉で水浴びをすることにしました。その泉は森の奥の奥、キラキラと光る水が湧き出る、とっても静かで美しい場所でした。妖精たちがディアナさまの弓矢や服を預かり、ディアナさまは気持ちよさそうに水の中へ入りました。

    その頃、アクタイオンという元気な若い狩人が、猟犬たちと一緒に森で狩りをしていました。アクタイオンは夢中になって獲物を追いかけているうちに、いつの間にか道に迷ってしまいました。「あれ?ここはどこだろう?」キョロキョロしていると、水の音が聞こえてきました。

    「お、水だ!ちょうど喉が渇いていたんだ!」アクタイオンは茂みをかき分けて、その泉へ近づいていきました。そして、見てしまったのです! まさか女神さまが水浴びをしているなんて、夢にも思わずに。

    「きゃあ!」妖精たちがびっくりして叫びました。ディアナさまも、突然現れたアクタイオンを見て、顔を真っ赤にして怒りました。「だれです!よくもわたしの姿を!」

    アクタイオンはびっくりして、声も出ません。ただ、美しいディアナさまの姿に見とれてしまいました。

    ディアナさまは、怒りで体がふるえるほどでした。「見てはいけないものを見たあなたには、おしおきです!」そう言うと、ディアナさまは泉の水をアクタイオンにパシャリとかけました。

    すると、どうでしょう!アクタイオンの頭からは、にょきにょきと鹿のツノが生えてきました。手足は細長い鹿の足に変わり、体はあっという間にふわふわの茶色い毛でおおわれました。アクタイオンは、立派な鹿の姿に変えられてしまったのです!

    「ヒーン!」鹿になったアクタイオンは、自分の声変わりようにびっくりして、森の中へ駆け出しました。

    そこへ、アクタイオンの猟犬たちがやってきました。犬たちは、さっきまで一緒にいたご主人さまの匂いがするのに、目の前にいるのは鹿です。「クンクン…ワンワン!」犬たちは戸惑いながらも、鹿の姿のアクタイオンを追いかけ始めました。

    鹿になったアクタイオンは、必死で逃げました。「ぼくだよ!みんな、ぼくだよ!」と心の中で叫びましたが、鹿の声しか出ません。犬たちは、獲物だと思ってどんどん追いかけてきます。

    森の奥へ奥へと逃げていくアクタイオン。それを見ていたディアナさまは、少しだけ悲しそうな顔をして、追いかける犬たちに言いました。「もう、おやめなさい。」

    犬たちはピタッと止まりました。鹿になったアクタイオンは、そのまま森のずっと奥深くへ消えていきました。

    それからというもの、アクタイオンは鹿として森で静かに暮らしたそうです。そしてディアナさまは、時々、月の光に照らされた森の中で、遠くからその鹿の姿をそっと見守っていたということです。見てはいけない秘密は、そっと心の中にしまっておくのが一番なのかもしれませんね。

    1101 閲覧数