狐おくさまの結婚
グリム童話
森の奥の、かわいらしいお家に、キツネの旦那さんと奥さんが住んでいました。旦那さんはもうすっかりおじいさんで、ある日、自分が死んだふりをして、奥さんがどれだけ自分のことを好きか試してみようと思いつきました。
「ああ、わしはもうだめだ…」
そう言うと、旦那さんはベッドにごろんと横になり、ピクリとも動きません。まるで本当に死んでしまったみたいです。
奥さんはびっくりして、女中(じょちゅう)の猫さんを呼びました。
「大変よ、猫さん!旦那様が亡くなってしまったわ。お部屋をきれいに掃除して、火をしっかり燃やしておいてちょうだい。それから、誰かが私に結婚を申し込みに来たら、その人が九本のしっぽを持っているか確かめてね。そうでなければ、お断りするのよ。」
奥さんは自分の部屋に閉じこもって、しくしく泣いているふりをしました。
まもなく、コンコン、とドアをたたく音。猫さんがそっとドアを開けると、そこには若いキツネが一匹。
「こんにちは。奥様にご挨拶したいのですが。」
猫さんは尋ねました。「失礼ですが、あなたのしっぽは何本ありますか?」
「一本だけだよ。」と若いキツネ。
「まあ、それでしたら奥様にはお会いできませんわ。」猫さんはピシャリとドアを閉めました。
またコンコン。今度は二本のしっぽのキツネです。
「こんにちは。奥様はご在宅かな?」
「しっぽは何本お持ちで?」
「二本さ!」
「残念ですが、お通しできません。」
そんなふうに、三本、四本、五本…と、次々にキツネたちがやってきましたが、みんなしっぽが足りません。猫さんはそのたびに追い返しました。
とうとう、九本の立派なしっぽを持ったキツネがやってきました。
「奥様にお目にかかりたい。私は九本のしっぽを持つキツネですぞ。」
猫さんは大喜びで奥さんの部屋へ飛んでいきました。
「奥様、奥様!九本のしっぽをお持ちの方がいらっしゃいました!」
奥さんはぱっと顔を上げ、「まあ、本当?すぐにお通しして!」
九本のしっぽのキツネは、それはそれはハンサムでした。奥さんはすっかり気に入り、すぐに結婚式の準備が始まりました。ごちそうがたくさん並び、お客さんたちも集まってきました。
みんなが陽気に歌い踊っているその時です!
ベッドで死んだふりをしていたおじいさんキツネが、むっくりと起き上がりました。
「こらーっ!わしが生きているというのに、勝手に結婚式とは何事だ!」
おじいさんキツネは大きな棒を振り回し、新しい花婿も、お客さんたちも、みんな家から追い出してしまいました。
九本のしっぽのキツネは、ほうほうの体で逃げていきました。
キツネの奥さんは、ちょっとバツが悪そうにしていましたが、おじいさんキツネはなんだか満足そう。
それからというもの、おじいさんキツネは、奥さんが本当に自分のことを一番好きでいてくれるか、もう疑うことはなかった…かもしれませんね。
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