パンドラの箱
ギリシア神話
空の上、神様たちが住んでいるオリンポス山では、ある日、ちょっとした騒ぎが起きました。火の神プロメテウスが、人間のためにこっそり天から火を盗んでしまったのです。これを知った神々の王ゼウスはカンカンに怒りました。「人間たちに、ちょっとお仕置きをしてやらねば!」
そこでゼウスは、美しいけれど、とっても知りたがりな女性、パンドラを創るよう鍛冶の神ヘパイストスに命じました。他の神様たちも、パンドラに美しい服や、歌の才能、そして「好奇心」という特別な心を与えました。
ゼウスはパンドラに、きれいな飾りのついた一つの箱を持たせ、「この箱は絶対に開けてはいけないよ」と固く約束させました。そして、パンドラをプロメテウスの弟、エピメテウスのもとへ送りました。
エピメテウスは、兄さんから「ゼウスからの贈り物は絶対に受け取るな」と注意されていましたが、パンドラの美しさと優しさにすっかり心を奪われ、彼女を喜んで迎え入れ、結婚しました。
パンドラはエピメテウスと幸せに暮らしていましたが、例の箱のことが頭から離れません。「あの箱には、一体何が入っているのかしら?ちょっとだけなら…」好奇心は日に日に大きくなっていきました。
とうとう、ある日、パンドラは我慢できなくなり、エピメテウスがいない間に、こっそり箱のふたをほんの少しだけ開けてしまいました。
その瞬間、箱の中から、もくもくと黒い煙のようなものが飛び出してきました!それは、病気、悲しみ、怒り、ねたみ、苦しみといった、人間を困らせる悪いものたちでした。あっという間に、それらは世界中に広がってしまいました。
「しまった!」パンドラは慌てて箱のふたを閉めましたが、ほとんどの悪いものは外へ逃げてしまった後でした。パンドラは自分のしたことを後悔して、しくしく泣き出しました。
すると、箱の中からか細い声が聞こえました。「私を出して…私を出して…」
パンドラは恐る恐る、もう一度だけ箱のふたをそっと開けました。すると、最後に残っていた小さな光るものが、ひらひらと飛び出してきました。それは「希望」でした。
だから、今でも世界にはたくさんの困ったことや悲しいことがあるけれど、私たちにはいつも「希望」が残されているのだと言われています。どんなに大変な時でも、希望さえあれば、きっと乗り越えていけるのですね。
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