• 蟷螂の斧

    中国寓話
    あるよく晴れた朝、カマキリのカマくんが、のんびりお散歩をしていました。カマくんは、自分の緑色の体がかっこいいといつも思っていました。特に、ギザギザの鎌(かま)みたいな前足がお気に入りです。

    「今日もいい天気だなあ。何か面白いことないかな?」カマくんがキョロキョロしていると、遠くからゴロゴロ、ガタガタと大きな音が聞こえてきました。
    「ん? なんの音だろう?」
    カマくんが道の先をじっと見つめていると、土煙をあげながら、大きな大きな馬車がこちらへ向かってくるではありませんか!馬車を引いている馬も、とっても大きくて力強そうです。

    カマくんはびっくりしましたが、すぐにこう思いました。
    「わあ、大きいなあ。でも、ぼくだって負けないぞ!ぼくのこの立派なカマを見せてやるんだ!」
    カマくんは道の真ん中にどっしりと立つと、自慢の前足を高く振り上げ、まるで「通せんぼだぞ!」と言うように、大きな馬車に向かって構えました。

    馬車を運転していたおじさんは、道の真ん中に小さな緑色の虫がいるのに気づきました。
    「おや? あんなところにカマキリがいるぞ。何をしているのかな?」
    おじさんは最初、不思議に思いましたが、カマくんが一生懸命、小さなカマを振り上げて、大きな馬車に立ち向かおうとしている姿を見て、思わずくすっと笑ってしまいました。
    「ははは、なんて勇気のあるカマキリさんだろう!あんなに小さいのに、大きな馬車を止めようとしているなんて、たいしたもんだ。」

    おじさんは、カマくんの勇気を褒めてあげたい気持ちになりました。だから、馬車をカマくんのすぐそばで止めたりはせず、カマくんをよけて、ゆっくりと馬車を進めました。

    大きな馬車が自分を避けて通り過ぎていくのを見て、カマくんは得意になりました。
    「どうだ!ぼくの力には、大きな馬車だってかなわないんだぞ!」
    カマくんは胸を張って、またお散歩を続けました。本当は馬車のおじさんが優しさでよけてくれただけなのですが、カマくんは自分が馬車を追い払ったと、すっかり思い込んでいるのでした。

    でも、そんなカマくんのちょっとおかしな勇ましさを、お空の太陽さんはニコニコしながら見ていましたよ。

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