• そろばん勘定

    中国寓話
    とある村に、お金をとても大切にする、というよりは、ちょっぴりケチな男がいました。

    ある日、男は市場へ行きました。そこで、ぴかぴか光る、たった一つの卵を買いました。「よし!」男は心の中で叫びました。「この卵を温めて、ひよこを孵そう!」

    男は家に帰る途中、わくわくしながら考え始めました。
    「この卵からひよこが生まれて、大きくなったら鶏になる。その鶏は毎日卵を産むだろう。たくさんの卵を売れば、お金がたくさん手に入るぞ!」

    男の想像はどんどん膨らみます。
    「卵を売ったお金で、今度はかわいい子豚を買うんだ。子豚は大きくなって、たくさんの赤ちゃん豚を産む。その豚たちを売れば、もっともっとお金持ちになれる!」

    男はにこにこしながら、さらに考えました。
    「豚を売ったお金で、立派な牛を買おう。牛は牛乳をくれるし、子牛も産む。牛乳と子牛を売れば、大金持ちだ!そしたら広い畑を買って、大きな家を建てるんだ。そして、素敵なお嫁さんをもらって、かわいい子供たちもたくさんできるだろうなあ。」

    男はすっかり夢中になって、まるで本当に大きな家に住んでいるような気分になりました。
    「もし僕が家でゴロゴロしていたら、お嫁さんが『あなた、また怠けて!』って怒るかもしれないな。そしたら僕は、『うるさい!』って、こうだ!」

    男はそう叫びながら、勢いよく足を蹴り上げました。
    パリン!
    なんと、男が大切に手に持っていたたった一つの卵が、蹴り上げた足に当たって、地面に落ちて割れてしまったのです。

    「あぁ…僕の鶏、僕の豚、僕の牛、僕の大きなお家…」
    男は割れた卵の前で、しょんぼりとうなだれるしかありませんでした。まだ始まってもいない夢は、あっけなく消えてしまったのです。

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