馬の耳に念仏
中国寓話
緑の草原が広がる、のどかな村に、琴を弾くのがとっても上手な公明(こうめい)さんという人が住んでいました。公明さんの弾く琴の音は、それはそれは美しくて、聞く人みんなをうっとりさせるのでした。
ある晴れた日、公明さんが気持ちよく野原を散歩していると、一頭の牛がのんびりと草をもしゃもしゃ食べているのを見つけました。
「おお、牛さん、こんにちは。今日はいい天気だねえ」
公明さんは思いました。
「そうだ!この牛さんに、私の素晴らしい琴の音を聞かせてあげよう。きっと喜ぶに違いない!」
そこで公明さんは、牛さんのそばに座り、愛用の琴を取り出しました。そして、一番得意で、それはそれは美しいけれど、ちょっぴり難しい、高尚な曲を弾き始めました。
ポロロン、ポロロン…澄んだ音が野原に響き渡ります。
でも、牛さんはどうでしょう?
もぐもぐ、もぐもぐ。
相変わらず草を食べるのに夢中で、琴の音なんてまるで聞こえていないみたいです。ちらりとも公明さんの方を見ません。ただひたすら、もぐもぐ、もぐもぐ。
公明さんはちょっとがっかり。
「うーん、この曲は牛さんには難しすぎたかな?もっと牛さんがわかるような音じゃないとダメなのかな?」
と考えました。
そこで今度は、琴で蚊がブーンと飛ぶ音や、小さな子牛が「モォー、モォー」と鳴くような音、アブがうるさく飛び回る音などを真似て弾いてみました。
するとどうでしょう!
さっきまで知らんぷりだった牛さんが、草を食べるのをやめて、ピクピクと耳を動かし、しっぽをパタパタと振って、なんだか嬉しそうに公明さんの方を見ました。まるで「うんうん、その音、わかるよ!」と言っているかのようです。
公明さんはにっこり。牛さんにもわかる音楽があったんだね、と嬉しくなりました。そして、相手に合わせたお話や音楽が大切なんだな、と改めて思ったのでした。
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