舟に刻みて剣を求む
中国寓話
お日様がニコニコと笑っている、ある気持ちのいい朝のことです。
一人のちょっぴりうっかり屋さんのおじさんが、大きな川を船で渡っていました。おじさんは腰に、ピカピカに磨かれた大切な剣を差していました。
船が川の真ん中あたりにさしかかったときです。おじさんは船べりに寄りかかって景色を眺めていましたが、うっかりバランスを崩してしまいました。「おっとっと!」その拍子に、大切な剣がポチャン!と音を立てて川の中に落ちてしまったのです。
「ああっ!大変だ!僕の剣が!」
おじさんは一瞬慌てましたが、すぐに「そうだ!」と何かを思いついた顔になりました。
そして、急いで小さな刀を取り出すと、船のへり、ちょうど剣が落ちた真上のところに、ギュッギュッと印を刻みつけました。
「よし、これで大丈夫。あとで船が岸に着いたら、この印のところから潜れば剣は見つかるはずだ。」
おじさんは満足そうに頷きました。
船はズンズンと進んでいきます。おじさんは、船べりに刻んだ印を時々見ながら、ニコニコしています。
やがて、船は向こう岸に着きました。
「さあ、着いたぞ!」
おじさんは、いそいそと服を脱ぎ始めると、さっき印をつけた船べりのところへ行きました。
そして、「ここだ、ここだ!」と言いながら、ザブン!と川へ飛び込みました。
でも、いくら潜って探しても、剣はどこにも見つかりません。
「あれえ?おかしいなあ。ちゃんと印をつけたのになあ。」
おじさんは首をかしげて、何度も何度も潜っては上がってきましたが、やっぱり剣は見つかりませんでした。
周りで見ていた人たちは、その様子を見てクスクスと笑いました。
だってそうでしょう?船は動いて、印をつけた場所も岸まで一緒に動いてきたけれど、川の底に沈んだ剣は、落としたその場所から動いていないのですから。おじさんは、船が動いたことをすっかり忘れていたのですね。
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