キツネと樹
イソップ寓話
ある日、森の中をキツネが一心不乱に走っていました。「はあ、はあ、たいへんだ!猟師さんたちに追いかけられてる!」キツネは息を切らしながら、どこか隠れる場所を探していました。
そのとき、大きな木の下で、ひとりの木こりが斧をふるって仕事をしていました。キツネは木こりに駆け寄って言いました。「木こりさん、お願いです!どうか私をかくまってください!猟師さんたちがすぐそこまで来ているんです!」
木こりはニヤリと笑って、「よしよし、わかった。あそこの僕の小さな小屋に入って隠れているといいよ」と言いました。キツネは大喜びで小屋に飛び込みました。
まもなく、猟師たちがやってきて、木こりに尋ねました。「もしもし、木こりさん。このあたりでキツネを見かけませんでしたかな?」
木こりは大きな声で「いいや、キツネなんて見てないよ!」と答えました。でも、そのとき、木こりはこっそりと片方の手で、キツネが隠れている小屋の方を指さしたのです。猟師たちは木こりの言葉だけを信じて、その仕草には気づかずに、別の方向へ行ってしまいました。
猟師たちがいなくなると、キツネは小屋からそっと出てきました。そして、木こりには何も言わずに、森の奥へ帰ろうとしました。
それを見た木こりは、少しむっとして言いました。「おい、キツネくん。私が助けてあげたのに、お礼の一言もないのかい?」
キツネは立ち止まって、木こりの方を振り返りました。そして、静かに言いました。「もちろん、お礼を言うつもりでしたよ。もし、あなたの手が、あなたの口と同じように親切だったらね。あなたの言葉は優しかったけど、あなたの指は私を裏切ろうとしていたじゃないか。」
それを聞いて、木こりはちょっぴり顔を赤くしました。キツネはそのまま静かに森の中へ消えていきました。
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