猫・鶏・鼠
イソップ寓話
あるところに、まだ世の中のことをなーんにも知らない、小さな子ネズミがいました。
今日が初めてのお外へのお出かけです。ドキドキしながら巣穴から顔を出すと、そこには見たこともない世界が広がっていました。
子ネズミがトコトコ歩いていると、向こうから大きな生き物がやってきました。
頭の上には真っ赤な飾りをつけて、黄色くて鋭いくちばし。そして、大きな声で「コケコッコー!」と叫んでいます。
子ネズミはびっくり仰天!「うわー!なんだ、あの怪物!大きな声で怒鳴ってるし、きっと僕を食べちゃうんだ!」
慌てて草むらに隠れました。
しばらくして、怪物がどこかへ行ってしまったので、子ネズミはホッとしました。
すると今度は、別の生き物が静かに近づいてきました。
その生き物は、ふわふわの柔らかそうな毛をしていて、優しい目つき。喉をゴロゴロと鳴らして、とても穏やかそうです。
子ネズミは思いました。「わあ、なんて優しそうな人だろう!さっきの怪物とは大違いだ。友達になれるかもしれないな。」
子ネズミは急いで巣穴に帰ると、お母さんネズミに興奮して話しました。
「お母さん、大変だよ!外にはすっごく怖い怪物がいたんだ!大きな声で叫んでて、頭に赤い飾りをつけてて…!」
それから、こう続けました。「でもね、とっても優しそうな人にも会ったんだ。ふわふわで、静かで、僕にも親切にしてくれそうだったよ!」
お母さんネズミは、子ネズミの話をじっと聞いていましたが、ため息をついて言いました。
「ああ、坊や。それはね、大きな間違いだよ。」
「え?」子ネズミはきょとんとしました。
「お前が怪物だと思った、大きな声の生き物はニワトリさんだよ。確かに見た目は派手だけど、私たちネズミに何もしない、無害な鳥さんさ。」
「じゃあ…あの優しそうな人は?」
お母さんネズミは真剣な顔で言いました。「坊やが優しそうだと思った、静かでふわふわの生き物こそ、ネコだよ。私たちネズミにとっては、一番恐ろしい敵なんだ。あの静けさと優しい目つきに騙されてはいけないんだよ。」
子ネズミは、お母さんの話を聞いてびっくり。そして、見た目だけで判断してはいけないんだな、と深く心に刻みました。
初めてのお出かけは、ちょっぴり怖かったけれど、大切なことを学んだ一日になりました。
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