蜜蜂とゼウス
イソップ寓話
空のずっと上、雲の上のきらきら光る宮殿に、神様たちの王様、ゼウスが住んでいました。そして地上には、せっせと働く一匹のミツバチがいました。このミツバチは、それはそれは甘くて美味しい、黄金色の蜜を作るのがとっても上手だったのです。
ある日、ミツバチは思いました。「こんなに美味しい蜜なんだもの、神様の王様ゼウスさまに召し上がっていただきたいわ!」
そこで、一番上等な蜜を壺いっぱいに詰めて、えっちらおっちら、雲の上の宮殿まで飛んでいきました。
「ゼウスさま、ゼウスさま!わたくしが作ったとっておきの蜜でございます。どうぞ、お召し上がりくださいませ!」
ゼウスは、ミツバチが差し出した蜜を一口なめて、目を丸くしました。
「おお!これはなんと素晴らしい味じゃ!こんなに美味しい蜜は、生まれて初めて食べたぞ!」
ゼウスはたいそうご機嫌になり、ミツバチに言いました。
「褒美をとらせよう。そなたの願いを何でも一つ、叶えてやろうぞ。」
ミツバチは少し考えてから、こう言いました。
「では、ゼウスさま。わたくしが持っているこの針で、チクリと刺した相手を…ええと、その…やっつけられるようにしてくださいませ!そうすれば、誰もわたくしの蜜を盗みに来なくなりますから。」
それを聞いたゼウスの顔が、みるみるうちに曇っていきました。
「なんと!そなたはそんな恐ろしいことを願うのか!あんなに美しい蜜を作るそなたが、そんな意地悪な心を持っていたとは、がっかりじゃ。」
ゼウスは少し悲しそうな顔をしましたが、約束は約束です。
「よろしい。そなたの願いを、ある意味では叶えてやろう。だが、よく聞くのじゃ。お前がその針を誰かに使ったなら、お前自身も、その針と一緒に命を失うことになるのだ。」
ミツバチはびっくりしましたが、もう後の祭りです。
それからというもの、ミツバチは誰かを針で刺すと、自分も死んでしまうようになったのです。だから、ミツバチは本当に怒った時や、巣を守るためにどうしても必要な時しか、針を使わないようになったということです。ちょっぴり残念な願い事でしたね。
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