• 革の長靴

    グリム童話
    あるところに、お父さんが亡くなって、三人の兄弟がのこされました。
    一番上のお兄さんには大きな粉ひき小屋、二番目のお兄さんにはロバが一頭。そして、一番下の男の子、ハンスがもらったのは…なんと、一匹のネコだけだったのです!

    「ネコ一匹で、これからどうやって暮らしていけばいいんだ…」ハンスはがっかりして、ため息をつきました。
    すると、そのネコが突然しゃべりだしたのです!
    「ご主人様、ご心配なく。私にしゃれた長靴と、袋を一つくださいな。きっとお役に立ってみせますから!」
    ハンスはびっくりしましたが、ネコはとてもかしこそうだったので、なきなしのお金で長靴と袋を用意しました。

    長靴をはいたネコは、さっそく森へ行きました。袋にキャベツの葉っぱを入れて罠をしかけると、まるまると太ったウサギが一羽、まんまと袋に入りました。
    ネコはそのウサギを王様のお城へ持っていき、こう言いました。
    「これは、私の主人、カラバ侯爵からのほんのささやかな贈り物でございます。」
    王様は珍しいウサギに大変喜び、「カラバ侯爵によろしく伝えてくれ」と言いました。

    次の日も、ネコはヤマウズラを二羽捕まえて王様に届けました。王様はますますカラバ侯爵に会いたくなりました。

    ある日、ネコは王様がお姫様と一緒に川沿いを馬車で通ることを知りました。
    ネコはハンスに言いました。「ご主人様、今すぐ服を脱いで、あの川で水浴びをしてください!」
    ハンスが言われたとおりにすると、ネコはハンスの服を茂みの中に隠し、王様の馬車が通りかかったときに大声で叫びました。
    「大変だー!カラバ侯爵様が川でおぼれているぞー!服も盗まれたー!」

    王様はそれを聞いてびっくり。すぐに家来にハンスを助けさせ、自分の一番立派な服をハンスに着せました。
    素敵な服を着たハンスは、まるで本物の侯爵様のよう。お姫様も、りりしいハンスを見て、ぽっと顔を赤らめました。

    王様はハンスを馬車に乗せ、お城へ招待することにしました。
    ネコは馬車より先に走り出し、畑で働く農夫たちに言いました。
    「もし王様に『この畑は誰のものか』と聞かれたら、『カラバ侯爵様のものです』と答えるんだ。さもないと、みじん切りにしちゃうぞ!」
    農夫たちは怖がって、王様が尋ねるとネコの言ったとおりに答えました。
    王様は「カラバ侯爵はなんと広大な土地を持っているのだ!」と感心しました。

    ネコはどんどん先へ進み、大きな大きなお城にたどり着きました。そのお城には、どんな姿にも変身できる、恐ろしい人食い鬼が住んでいました。
    ネコは鬼の前に進み出て、おじぎをしました。
    「鬼様、あなたはどんな動物にも変身できると伺いました。例えば、ライオンとかにも?」
    「もちろんだとも!」鬼は得意げに言うと、たちまち大きなライオンに変身しました。ネコはびっくりしたふりをして、少し後ろへ飛びのきました。

    ライオンが元の姿に戻ると、ネコは言いました。
    「いやあ、お見事でございます。でも、まさか、小さなネズミのようなものにはなれないでしょう?」
    「何だと!わしを馬鹿にするのか!」鬼はカチンときて、すぐに小さなネズミに姿を変えました。
    その瞬間、ネコは「それっ!」とネズミに飛びかかり、パクリと食べてしまいました。

    ちょうどその時、王様の馬車がお城に到着しました。
    ネコは門のところでお辞儀をして言いました。「ようこそ、カラバ侯爵様のお城へ!」
    王様は立派なお城を見て、ますます感心しました。
    ハンスは美しいお姫様と結婚し、ネコのおかげで本当の侯爵様になりました。
    そして、かしこい長靴をはいたネコも、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

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