• マレーン姫

    グリム童話
    むかしむかし、というほど昔でもないけれど、ある国にマレーンという、それはそれは可愛らしいお姫様がいました。マレーン姫は、お隣の国の素敵な王子様と恋に落ち、結婚の約束をしました。

    ところが、マレーン姫のお父さんである王様は、なぜだかその王子様のことが気に入らず、「だめだ、その結婚は許さん!」と大反対。怒った王様は、マレーン姫と、姫のお世話をする侍女の二人を、真っ暗な高い塔の一室に閉じ込めてしまいました。「七年分の食べ物と飲み物を置いておく。それで考え直すがいい!」

    七年もの長い月日が流れました。塔の中の食べ物も飲み物も、とうとう最後の一滴、ひとかけらになってしまいました。「もうだめだわ…」マレーン姫と侍女は、持っていた小さなナイフで、来る日も来る日も壁の石を少しずつ削り始めました。そして、何日もかかって、やっと小さな穴を開け、そこから外へ出ることができたのです!

    しかし、外の世界は変わり果てていました。マレーン姫の国は戦争で滅ぼされ、お城も町もボロボロ。誰も住んでいませんでした。悲しみにくれながらも、二人は歩き続けました。

    どのくらい歩いたでしょう。ようやくたどり着いたのは、立派なお城でした。幸いなことに、二人はお城の台所で、お皿洗いや床掃除など、下働きとして雇ってもらえることになりました。そしてびっくり! なんとこのお城こそ、マレーン姫が愛したあの王子様のお城だったのです。

    でも、王子様の様子がなんだかおかしいのです。いつも悲しそうな顔をしています。聞いてみると、王子様は別の、あまり美しくない花嫁さんと結婚させられることになっていたのでした。その花嫁さんは、自分の顔に自信がないのか、いつも顔を隠していて、人前に出るのをとても嫌がりました。

    いよいよ結婚式の日。新しい花嫁さんは、マレーン姫に言いました。「ねえ、あんた、私と背格好が似ているわね。私の代わりに、教会まで行ってちょうだい。私は恥ずかしいから嫌なの。」
    マレーン姫は悲しくてたまりませんでしたが、逆らうことはできません。花嫁の衣装を着て、教会へ向かいました。

    歩きながら、道端に生えていたイラクサに、マレーン姫はそっと話しかけました。
    「イラクサさん、イラクサさん、かわいそうな私。本当の花嫁は、私じゃないのよ。」
    教会の階段を上るときも、つぶやきました。
    「階段さん、階段さん、かわいそうな私。本当の花嫁は、私じゃないのよ。」
    そして、教会の扉の前でも。
    「扉さん、扉さん、かわいそうな私。本当の花嫁は、私じゃないのよ。」

    王子様は、マレーン姫の声を聞いて、「あれ?どこかで聞いたことがある、懐かしい声だ…」と不思議に思いました。そして、式の後、マレーン姫がイラクサや階段や扉に話しかけていたことを他の人から聞き、ますます「もしかして…」と思いました。

    夜の結婚のお祝いの席でも、新しい花嫁さんは「やっぱり私、恥ずかしいから、あなたが代わりに出て」とマレーン姫に言いつけました。マレーン姫は、昔王子様からもらった、美しい金の首飾りをそっと首につけて、宴会の席に出ました。

    王子様は、その首飾りを見て、はっとしました。「その首飾りは!私が愛したマレーン姫にあげたものだ!君は…君は一体誰なんだい?」
    マレーン姫は涙を浮かべて答えました。「王子様、私です。私がマレーンです。」

    王子様は、七年ぶりに再会できたマレーン姫を強く抱きしめました。嘘をついていた新しい花嫁さんは、自分の嘘がばれてしまい、とても怒ってマレーン姫をいじめようとしましたが、家来たちに取り押さえられました。

    こうして、マレーン姫と王子様は、今度こそ本当に結婚式を挙げ、いつまでもいつまでも幸せに暮らしました。そして、意地悪で嘘つきだった花嫁さんは、お城から追い出されてしまったということです。めでたし、めでたし。

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