巨人と仕立屋
グリム童話
ある町に、腕はいいけれど、ちょっぴり自慢屋さんの若い仕立て屋がいました。
ある朝、仕立て屋がパンに甘いジャムを塗っていると、ブンブンと七匹のハエが飛んできて、ジャムにとまりました。
「こりゃあ、うるさい!」
仕立て屋は布切れでえいっと叩くと、なんと七匹まとめてぺしゃんこにしてしまいました。
「すごいぞ!一撃で七匹だ!」
仕立て屋はすっかり得意になり、太いベルトを作って「一撃で七匹」と大きな字で縫い付けました。そして、そのベルトを締めて、世界を見てやろうと旅に出ました。チーズひとかけらと、ポケットに小鳥を一羽しのばせて。
山道を歩いていると、大きな大きな巨人がどっしりと座っていました。
「よう、ちびすけ。どこへ行くんだ?」
「世界を見にな。どうだ、俺は『一撃で七匹』仕留める男だぞ!」仕立て屋はベルトを見せました。
巨人は「七匹」を「七人」と勘違いして、「ほう、そりゃたいしたもんだ。力試しをしようじゃないか」と言いました。
まず、巨人は石を拾い、ぎゅっと握ると、水が少しだけしみ出てきました。
「どうだ、できるかな?」
仕立て屋はポケットからチーズを取り出し、力いっぱい握りしめました。すると、チーズから水分がポタポタと流れ落ちました。
「ふん、やるじゃないか」
次に、巨人は石を空高く放り投げました。石はずっと飛んでいきましたが、やがて地面に落ちてきました。
「これならどうだ?」
仕立て屋はポケットから小鳥を取り出し、空に放しました。小鳥は喜んで、どんどん高く、遠くへ飛んでいって見えなくなりました。
「まいったな。お前はなかなか賢いようだ」
巨人は仕立て屋を自分のすみかに連れて行きました。そこには他の巨人たちもいて、仕立て屋を面白そうに見ていました。
夜になり、巨人は仕立て屋に大きなベッドで寝るように言いました。でも、仕立て屋はベッドが大きすぎるので、こっそり隅っこで丸くなって寝ました。
真夜中、巨人は大きな鉄の棒を持ってきて、仕立て屋が寝ているはずのベッドを力いっぱい叩きつけました。「これでぺしゃんこだ!」
でも、仕立て屋は無事だったので、次の朝、何食わぬ顔で出ていくと、巨人たちはびっくり仰天。まさか生きているとは思わなかったので、怖くなって逃げてしまいました。
仕立て屋は旅を続け、ある国のお城に着きました。
王様は仕立て屋のベルトを見て、「『一撃で七人』とは、なんと勇ましい若者だ!」とまた勘違いし、家来にしました。
しかし、他の家来たちは、小さな仕立て屋が気に入らず、王様に言いました。
「あんな者と一緒に働くのはごめんです」
困った王様は、仕立て屋に難しい仕事を言いつけました。
「森にいる二人の乱暴な巨人を退治してくれたら、娘の姫と国の半分をお前にやろう」
仕立て屋は森へ行くと、二人の巨人が木の下でいびきをかいて寝ていました。仕立て屋は木に登り、一方の巨人の胸に石をポイ。
「何をする!」巨人は目を覚まし、もう一方の巨人をどやしました。
「何もしてないぞ!」
二人は言い争い、仕立て屋はまた石をポイ。今度はもう一方の巨人に。
「やっぱりお前だな!」
とうとう二人の巨人は大げんかを始め、お互いをやっつけてしまいました。
次に王様は、「森の一角獣を捕まえてこい」と言いました。
仕立て屋は一角獣を見つけると、わざと大きな木の前に立ちました。一角獣が怒って突進してくると、仕立て屋はひらりとかわしました。一角獣は勢い余って、角が木にズボッと突き刺さり、動けなくなってしまいました。
最後に王様は、「森の凶暴なイノシシを捕まえろ」と言いました。
仕立て屋はイノシシを追いかけ、小さな礼拝堂の中に追い込みました。イノシシが中に飛び込むと、仕立て屋はすばやく外から戸を閉めて、閉じ込めてしまいました。
こうして、仕立て屋はすべての手柄を立て、お姫様と結婚し、やがて王様になりました。
ある夜、お姫様は仕立て屋が寝言で「このチョッキの縫い目は…ああ、ズボンの仕上げは明日だ…」と言うのを聞いてしまいました。
「まあ!この人、本当はただの仕立て屋だったのね!」
お姫様は怒って、次の夜、家来たちに仕立て屋を部屋から追い出すように命じました。
しかし、その計画をこっそり聞いていた仕立て屋は、次の夜、大きな声で寝言を言いました。
「わしは一撃で七人を倒し、二人の巨人を打ち破り、一角獣とイノシシを捕らえた男だぞ!この部屋の外にいる者たちなど、恐れるものか!」
それを戸の外で聞いていた家来たちは、怖くなって一目散に逃げ出しました。
それからというもの、誰も仕立て屋を疑う者はいなくなり、仕立て屋はずっと賢くて勇敢な王様として、国を立派に治めたということです。
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