池の水の精
グリム童話
静かな森の奥、キラキラ光る池のそばに、一軒の水車小屋がありました。そこには、粉ひきの男の人とその奥さんが住んでいました。初めは幸せに暮らしていましたが、だんだん仕事がうまくいかなくなり、とうとう食べるものにも困るようになってしまいました。
ある朝、粉ひきの男はあまりの貧しさに、どうしていいかわからず、池のほとりで深いため息をつきました。すると、池の中から美しい水の妖精が顔を出し、優しく話しかけてきました。「どうしてそんなに悲しそうなの?」
男が事情を話すと、妖精は言いました。「心配いらないわ。あなたを大金持ちにしてあげる。そのかわり、あなたの家で、生まれたばかりのものを私にちょうだい。」
男は「うちには子犬か子猫くらいしか生まれないだろう」と思い、簡単に「いいですよ」と約束してしまいました。
大喜びで家に帰ると、奥さんが満面の笑みで迎えてくれました。「あなた、聞いて!可愛い男の赤ちゃんが生まれたのよ!」
それを聞いて、男は顔が真っ青になりました。妖精との約束を思い出したのです。しかし、もうどうすることもできません。妖精のおかげで水車小屋は再び豊かになりましたが、男の心は晴れませんでした。男は息子に池に近づかないよう、固く言いつけました。
男の子はすくすくと育ち、賢くて勇敢な狩人になりました。そして、隣村の美しい娘さんと結婚し、二人で幸せに暮らしていました。
ある日、狩人は森で大きな鹿を追いかけていました。鹿は必死に逃げ、とうとうあの水車小屋のそばの池に飛び込んでしまいました。狩人もためらわず池に入り、鹿を捕まえようとしましたが、その瞬間、水の妖精が水の中から現れ、ニヤリと笑うと、力強い腕で狩人を池の底へと引きずり込んでしまったのです。
夕方になっても夫が帰ってこないので、奥さんは心配でたまりません。池の周りを何度も何度も歩き回り、夫の名前を呼び続けました。すると、どこからか優しい声が聞こえました。「悲しまないでおくれ。あの池のほとりで、月の光を浴びながら、金の櫛で髪をとかしなさい。それから金の笛を吹き、最後に金の糸車を回すのです。」声の主は、いつの間にかそばに立っていた親切なおばあさんでした。
奥さんはおばあさんの言う通りにしました。まず、金の櫛で静かに髪をとかすと、水面が揺れ、夫の頭がちらりと見えましたが、すぐに沈んでしまいました。次に、金の笛を取り出して美しい音色を奏でると、夫が胸まで水面に現れましたが、またすぐに沈んでしまいました。最後に、金の糸車を取り出し、月明かりの下でカラカラと回すと、夫が全身を水面に現し、助けを求めるように手を伸ばしました。
しかしその時、怒った水の妖精が大きな波を起こし、奥さんを岸辺からさらい、遠い知らない土地へ流してしまいました。夫もまた、別の場所へ打ち上げられてしまいました。
二人はお互いのことを何も知らないまま、長い年月を羊飼いとして過ごしました。ある春の日、羊の群れを追っていた男の羊飼い(もとの狩人)と、泉のほとりで休んでいた女の羊飼い(もとの奥さん)が出会いました。二人はなぜかお互いに強く惹かれ、話をするうちに、自分たちがかつて夫婦だったことを思い出したのです。
二人は手を取り合って涙を流し、喜び合いました。そして、それからは小さな家で、もう二度と離れることなく、いつまでも幸せに暮らしたということです。
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