• 井戸端のガチョウ番の娘

    グリム童話
    深い深い森のずっと奥に、小さなおうちがありました。そこには、一人のおばあさんが静かに暮らしていました。おばあさんは毎日、森へ行っては、乾いた小枝を拾い集めるのが日課でした。

    ある日のことです。おばあさんが、いつもよりたくさんの小枝を背負って、ふうふう言いながら坂道を登っていると、向こうから馬に乗った立派な若者がやってきました。若者は、おばあさんが大変そうにしているのを見て、馬からひらりと降りると、「おばあさん、重そうですね。私がお持ちしましょう」と優しく声をかけました。

    おばあさんはにっこり笑って、「ありがとう、親切な若者や。お礼に、これをあげよう」と言って、小さな木の箱を差し出しました。「この中には、それはそれはきれいな緑色の宝石が入っている。でも、まだ開けてはいけないよ。」

    そして、おばあさんは続けました。「この森をまっすぐ行くと、大きな古い井戸がある。その井戸のそばで待っていると、ガチョウをたくさん連れた娘がやってくるだろう。その娘が、井戸に何かを落として、拾ってくださいと頼むまで、決して話しかけてはいけないよ。いいね?」

    若者は、なんだか不思議なお話だなあと思いながらも、おばあさんの言う通りにすることにしました。森を抜け、言われた通り古い井戸のそばで待っていると、本当にガチョウの群れがガーガーと鳴きながらやってきました。そして、その後ろから、汚れた服を着て、髪もぼさぼさの娘さんがとぼとぼと歩いてきました。娘さんはとても悲しそうな顔をしていました。

    娘さんは井戸のふちに腰かけると、はあーっと深いため息をつきました。そして、手に持っていた小さな金のまりを、うっかりポチャンと井戸の中に落としてしまったのです。「あら、どうしましょう!」娘さんは今にも泣き出しそうです。

    その時です。若者は「私が拾ってあげましょう」と声をかけ、井戸の中へそろそろと降りていき、金のまりを見事に取り上げました。

    娘さんが若者から金のまりを受け取った、その瞬間!まあ、不思議なこと!娘さんの汚れた服は、キラキラと輝く美しいドレスに変わり、ぼさぼさだった髪はつやつやと輝き、顔も美しく輝いて、まるで別人のようなお姫様の姿になったのです。

    「ありがとうございます、優しい方。あなたのおかげで、悪い魔法使いにかけられた魔法がとけたのですわ。」お姫様はにっこりと微笑みました。実はお姫様は、意地悪な魔法使いによって、ガチョウ番の娘の姿に変えられてしまっていたのです。

    若者は、おばあさんにもらった木の箱をそっと開けてみました。すると中には、お姫様のドレスの色と同じ、それはそれは美しい緑色の宝石が、まばゆい光を放っていました。

    お姫様と若者は手を取り合って喜びました。そして二人は結婚して、いつまでもお城で幸せに暮らしたということです。あの森のおばあさんは、きっと良い魔法使いだったのでしょうね。

    2041 閲覧数