• 怪鳥グライフ

    グリム童話
    みんな、聞いて!これから始まるのは、ある国の王様と、そのたった一人の大切なお姫様のお話だよ。

    あるところに、一人娘のお姫様が重い病気にかかってしまった王様がいました。どんなお医者さんに見せても、どんな薬を飲ませても、お姫様の病気はちっとも良くなりません。王様は悲しくてたまりませんでした。

    そんなある夜、王様は不思議な夢を見ました。「お姫様の病を治すには、遠い遠い国に住む怪鳥グライフが持っている、特別なリンゴが必要じゃ」と、夢の中でお告げがあったのです。

    朝になると、王様は三人の王子を呼びました。
    「誰か、グライフのリンゴを取ってきてはくれぬか?成功した者には、この国を半分やろう」

    一番上のお兄さん王子は「僕が行きます!」と勇んで出かけましたが、途中の賑やかな町で道草を食って、リンゴのことなんてすっかり忘れてしまいました。
    二番目のお兄さん王子も「今度こそ僕が!」と出発しましたが、美しい森で出会った可愛いリスに夢中になり、やっぱりリンゴのことはどこかへ行ってしまいました。

    最後に残ったのは、一番下の、ちょっぴり気弱だけど心優しい弟王子でした。みんなは「お前なんかに無理だよ」と笑いましたが、弟王子は「お姫様のために、僕、行ってみる」と小さな声で言いました。

    弟王子がとぼとぼと森を歩いていると、一匹の賢そうなキツネに出会いました。
    「もしもし、王子さん。どこへ行くのですか?」
    弟王子が事情を話すと、キツネは言いました。
    「グライフのリンゴですね。よし、私が案内しましょう。でも、私の言うことをよーく聞くんですよ」
    弟王子は素直に「はい!」と頷きました。

    キツネは弟王子をグライフの住むお城まで連れて行きました。グライフは大きな鳥の体にライオンの頭を持つ、ちょっと怖いけれど堂々とした怪鳥でした。
    「ほう、リンゴが欲しいとな?よかろう。だが、三つの難しいお願いをクリアできたらな」とグライフは言いました。

    最初のお願いは、「火の鳥フェニックスの金の羽を一本持ってくること」。
    キツネは「フェニックスが泉で水を飲んでいる隙に、そっと近づいて、風で落ちたように見せかけて一本抜きなさい」と知恵を貸しました。弟王子はその通りにして、見事金の羽を手に入れました。

    二番目のお願いは、「金の城に住むお姫様の、魔法の指輪を持ってくること」。
    キツネは「私が衛兵たちを眠らせるから、その間にお姫様の部屋へ忍び込み、指輪をそっと借りてくるのです」と言いました。弟王子はドキドキしながらも、キツネのおかげで指輪を手に入れました。

    三番目のお願いは、「世界で一番速い、金の馬を連れてくること」。
    キツネは「馬小屋の番人が居眠りしている間に、馬にまたがり、決して金の鞍に触れずに逃げるのです」と教えました。弟王子は慎重に金の馬に乗り、無事に連れ出すことができました。

    三つの宝物を持ってグライフの元へ戻ると、グライフは感心して言いました。
    「お前は正直で、勇気もある。約束通り、このリンゴをやろう。そして、お前が気に入ったのなら、金の城のお姫様も、金の馬も連れて行くといい」
    なんと、金の城のお姫様は、弟王子の優しさに心惹かれていたのです。

    弟王子はリンゴとお姫様、そして金の馬を連れて、大喜びで国へ帰りました。
    ところが、国境近くの泉で休んでいると、後から追いかけてきた二人の兄さん王子が、弟王子を泉へ突き落とし、リンゴもお姫様も馬も奪って王様の元へ帰ってしまいました。

    「僕たちがやりました!」と兄さんたちが嘘をついていると、どこからかあの賢いキツネが現れました。キツネは泉から弟王子を助け出し、王様の前に連れて行きました。そして、兄さんたちの嘘を全部ばらしてしまったのです。

    王様はカンカンに怒って、嘘つきな兄さんたちを国から追い出してしまいました。
    弟王子が持ち帰ったリンゴを食べると、お姫様の病気はすっかり治り、元気になりました。

    その後、弟王子は美しい金の城のお姫様と結婚し、賢いキツネにも感謝して、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。

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