• 怠け者のハインツ

    グリム童話
    ある村に、ハインツという、それはそれはなまけものの若者が住んでいました。ハインツにとって、仕事なんて大っ嫌い。太陽の光を浴びて、のんびりするのが一番好きでした。

    そんなハインツがお嫁さんにもらったのは、太っちょのトリーナ。トリーナも、ハインツに負けず劣らずのなまけものでした。二人は、毎日ぶらぶらして過ごしていました。

    ある日、ハインツは言いました。「なあ、トリーナ。うちは牛を一頭持っているけど、牧草地へ連れて行くのさえ面倒くさいなあ。もっと楽なものと取り替えようよ。」
    トリーナも「そうねえ、それがいいわ」と賛成しました。

    そこでハインツは、牛を市場へ連れて行き、一匹の豚と交換しました。
    「豚なら、牛よりずっと楽だろう!」
    でも、この豚がまた、ブーブーうるさいし、世話も大変。
    「やっぱり、豚も面倒だねえ」とトリーナ。
    「よし、今度はがちょうと取り替えよう!」
    ハインツは豚を、一羽のがちょうと交換しました。

    「がちょうなら、静かだし、卵も産むかもしれないぞ!」
    でも、トリーナは言いました。「がちょうの羽をむしったり、世話をするのも、やっぱり面倒だねえ。それに、もし泥棒に盗まれたらどうするの?」
    「うーん、それもそうだなあ」ハインツは考え込みました。

    ちょうどその時、砥石(といし)を売る人が通りかかりました。砥石とは、包丁などを研ぐための石のことです。
    「これだ!」ハインツはひらめきました。「この砥石なら、何もしなくていいぞ!盗まれる心配もないし!」
    ハインツは、がちょうを大きな砥石と交換しました。

    「やったぞ、トリーナ!これで何もしなくていい!」ハインツは喜びました。
    でも、その砥石の重いこと!ハインツは汗をだらだら流しながら、やっとのことで運びました。トリーナも手伝いましたが、二人ともへとへとです。
    「この砥石を立てかけるために、もう一つ石を見つけよう」とハインツ。
    二人は、野原で手頃な石をもう一つ見つけました。

    二つの石を運んでいるうちに、喉が渇いてきました。ちょうど井戸があったので、そこで休むことにしました。
    ハインツは、重い砥石と小さな石を井戸のふちに置きました。そして、井戸の水を飲もうと身を乗り出したその拍子に、うっかり大きな砥石を井戸の中へ、ドボーン!と落としてしまいました。
    「ああっ!」
    驚いた拍子に、小さな石も、コトン!と井戸の中へ。

    ハインツとトリーナは、しばらく井戸の底を眺めていましたが、やがて顔を見合わせました。
    「ああ、よかった!」ハインツが言いました。「これで、あの重たい石ころからも解放されたぞ!」
    「ほんとね!」トリーナもにっこり。「おかげで、すっかり身軽になったわ!」
    二人は、まるで羽が生えたように身軽になって、手ぶらで家路につきました。

    家に帰ると、二人はぐっすり眠りました。もう何も心配することがないのですから、世界で一番幸せな二人でした。

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